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内視鏡手術に匹敵:創の目立たない"極小切開甲状腺癌標準手術(MHM-BR法=新Tori法)"について(僅か2cm創長の通常保険診療手術)

担当: 鳥 正幸:内分泌外科部長 水曜日診察

1.通常手術から内視鏡手術(Tori法)へ

大阪警察病院内分泌外科では、甲状腺癌標準手術(葉切除、全摘+リンパ節郭清)に対して、比較的若い患者さんが多いことを考慮した美容・整容性の追求と、リンパ節郭清や気管浸潤(shaving対応)に対しても根治性を損なわない術式を考案してきました。他施設での甲状腺標準手術では、極めて大きなU字切開を改め襟状切開が採用されている現在でも頸部正中に大きな襟状切開(創長8-10cm)を置くことが一般的です。しかし大きな創痕が一生残り、しかもかなり目立つ場所にあります。当科では、できる限り目立たず美しくなるように全摘や拡大リンパ節郭清においても6-8cmにとどめるように努めてまいりました(写真1)。

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(写真1)術後2.5年

 

   通常手術皮膚切開での左右対称の創痕はかなり小さな切開創でも正中部が肥厚・発赤を伴うことが多く美容上の大きな課題です。この課題を克服するため内視鏡手術に取り組みました。良性腫瘍と異なり甲状腺癌ではリンパ節郭清、特に中心領域の縦隔周囲郭清が必須です。頸部に創痕のない(scarless)手術をめざして腋窩や乳輪から内視鏡用のポート(筒)を挿入しての郭清は、角度的に視野が出せず十分な操作もできないことがわかっています。すなわち、甲状腺癌で根治性を約束できる頸部scarless手術は不可能と結論しています。諸問題を洗いざらい検討の上内視鏡を用いて小切開手術の長所を融合させた他に類をみないオリジナル手術hybrid-type thyroidectomy(HET:Tori法)を開発しました。創としては、正中をはずして片側鎖骨1横指頭側に創長1.5-2.0cm1アプローチ+鎖骨下2横指尾側に内視鏡用5mm port(1穴:片葉切除、2穴:全摘)で実施するものです。広範囲リンパ節郭清や気管浸潤にも対応するこの世界初の方法は、2012年春、アメリカ消化器内視鏡外科学会(SAGES)および論文において発表いたしました(註1,2)。術後は写真2(a,b)のごとくほとんど創がわからなくなります。

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(写真2a)HET片葉切除、LN郭清 術後3年

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(写真2b)HET全摘、LN郭清 術後9か月

 

2.内視鏡手術(Tori法)から極小切開通常保険診療手術(新Tori法)へ

「内視鏡手術」は実施上制約があるため、そのノウハウを小切開手術にフィードバックした極小切開手術をその後新規開発して内視鏡手術にかわり普及につとめています。それがやはり完全オリジナルなmuscle-hanging maneuver with bidirectional retraction(MHM-BR)」(別称「新Tori法」)です。

筋肉のつり上げと、小切開創をあたかも宙に浮かぶ円盤のように左右に動かして視野を作り出す「魔法のよう」と言われた方法です。通常甲状腺癌手術では頸部に8-10cmの創痕が残りますが、MHM-BR法(新Tori法)では、葉切除であろうと全摘であろうと、1.5-2.5cmの左右どちらか片側の鎖骨上切開のみで内視鏡手術のような鎖骨尾側のport痕はありません。最近では当施設の「標準手術」となっています。

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(写真3)「新Tori法」(創長2cm)術後1年:鎖骨上縁と重なり創痕はほぼわからない。

内視鏡手術では、未実施施設等から「根治性(リンパ節郭清)」や「長期予後」について問題視する声を学会等でお聞きしました(注意:当科の内視鏡手術はhybrid-typeでリンパ節郭清は直視下実施するため通常手術と遜色ありませんが、長期予後については開始後未だ3年故データがありませんので勿論反論不可能です)。一方、「小切開手術」は言うまでもなく「通常保険診療手術」であるため根治性を議論する余地はありません。何故なら、通常手術における施設間の創長の差は単に技術の差であると考えられるからです。内視鏡手術と異なり、保険診療の問題に加えて「内視鏡修練を受けていない甲状腺外科医」の問題や設備の問題もないのでどの施設も実施可能であるべきテクニックです。TNMステージ分類は予後評価が45歳未満(stageI,IIのみ)と45歳以上(I,II,III,IVA-C)で2分されているように、45歳未満では予後良好とされます。この点と、若い人ほど頸部に皺がなく創痕が目立ちやすいこと、等の理由から現在のところ45歳未満の方に対して「新Tori法」の適応としています。「通常手術」であるため技術があれば学術的にも根治性は従来と同等です。

3.きめの細かい甲状腺手術とフォローについて

甲状腺癌手術ではしばしば癌の浸潤等により反回神経麻痺による嗄声や嚥下障害、また副甲状腺喪失による低カルシウム血症と関連諸症状(痙攣発作等)などQOLの低下を招く場合があります。標準手術は難易度が高いとは必ずしも認識されていませんが、神経や副甲状腺を扱うため様々な程度の合併症が起こり易く、経験豊富で甲状腺外科に精通した医師が手術を担当しなければなりません。通常型手術においても当然ですが、小切開型手術においては更に厳守されています。また甲状腺癌手術は標準手術でも思いがけない致命的合併症がおこりえるリスクの高いものであることを十分認識する必要があります。ハイリスク症例や重大合併症発生時には甲状腺外科医だけでは対応できないことを銘記すべきです。ICU、麻酔科、耳鼻科、呼吸器科、循環器科、脳神経内科、脳外科、心臓外科、等他科との連携&バックアップが重要かつ不可欠です。大阪警察病院は「総合病院」のメリットを生かし、優秀な上記他科との連携もスムーズでご安心のサポートを提供しております(註3)。*甲状腺手術術後には、当院形成外科において創部ケアをしていただいております。

重要事項

*1

甲状腺学会専門医&内分泌甲状腺外科専門医は現在当施設1名のみです。全内分泌甲状腺手術症例に執刀医・指導医として責任を持つことにしておりますのでご安心ください。

*2

内視鏡手術(Tori法)や45歳以上の方の極小切開MHM法(新Tori法)については個別相談になります。外来御受診ください。

脚注

(註1)

Tori, Akamatsu, Yoshidome,Standardization of TORI METHODfor thyroid differentiated cancer including invasion to the thrachea.2012, 31th SAGES (アメリカ消化器内視鏡外科学会)San Diego, USA

(註2)

Hybrid-type endoscopic thyroidectomy (HET: Tori's method) for differentiated thyroid carcinoma including invasion to the trachea. Surg Endosc. 2013 Nov 22.

(註3)

「鳥正幸先生ウエブサイト」甲状腺癌

http://www.e-oishasan.net/site/tori/disease01.html

備考:手術の方法や全般的なことにも触れており、学会・論文発表記録と共にご覧ください。

(参考リンク)

機能温存を追求した甲状腺標準手術~マイクロサージェリーと自家移植の活用~

https://www.oph.gr.jp/blog/topics/post-33.html

0内分泌・甲状腺疾患手術実績(更新)-術後合併症≒0と内視鏡下甲状腺癌手術(Tori法)https://www.oph.gr.jp/blog/topics/post-183.html

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