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診療方針(病気の種類と診断・治療)

(目次)

1甲状腺について

2副甲状腺(上皮小体)について

3副腎について

4 病気について(甲状腺・副甲状腺・副腎・後腹膜疾患)

~甲状腺悪性腫瘍~(特徴・診断・治療)

~甲状腺良性腫瘍~(特徴・診断・治療)

~甲状腺ホルモンに関する疾患~(特徴・診断・治療)

~副甲状腺の疾患~(特徴・診断・治療)

~副腎の疾患~(特徴・診断・治療)

~多発性内分泌腺腫症~(特徴・診断・治療)

~後腹膜疾患~(特徴・診断・治療)

5甲状腺悪性および良性疾患に対する内視鏡手術(先進医療A:Tori法)について

6小切開MHM法(通常保険診療手術:新Tori法)について

7 気管合併切除(警察病院術式基準:Tori基準と独自の手技)について

8 難治性甲状腺癌に対する新規治療(分子標的治療)について

(項目順)

 

1. 甲状腺について

(1)甲状腺の部位と形状

 甲状腺は頸部前面正中でのどぼとけのすぐ尾側に位置する臓器でH型をしています。重さ15〜20g、大きさは上下に3-5cm、左右4cm、厚さ1-2cm(葉)程度の臓器です。右葉、左葉が峡部で繋がっています。正面から見ると、蝶が大きな木に羽を広げて止まっているように、背側の気管にへばりついて存在します。頸部前面に位置するため、腫れてきた時に触って分かる場合や目で見てわかる場合もあります。甲状腺ホルモン(T3、T4)という重要なホルモンを産生します。甲状腺の背側には左右1本ずつ反回神経が走行しています。頭部への動脈(総頚動脈)、静脈(内頚静脈)もその外側に存在します。

甲状腺外科方針①.png

 

(2)甲状腺の機能、特に甲状腺ホルモンについて

 人間の体の中ではさまざまなホルモンが作られています。ホルモンを作る臓器は内分泌器官と呼ばれ、甲状腺は内分泌器官です。海藻類などに多く含まれるヨードを摂取しそれを材料とすることにより甲状腺ホルモンが合成されます。甲状腺ホルモンには4つのヨウ素を有するサイロキシン(T4)と、3つのトリヨードサイロニン(T3)の2種類があります。これらの大部分は血清蛋白と結合していますが、実際ホルモンとしての活性を有するものは遊離型のfreeT3, freeT4です。甲状腺ホルモンは働きとして、(イ)新陳代謝を促進する、(ロ)交感神経を刺激して脈拍が増加する、(ハ)胎児に対して成長ホルモン様に働く、などがあります。脳下垂体の甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって甲状腺ホルモン分泌が調節されます。TSH-T3,4系のホルモン分泌機構にはフィードバック機構というホルモン分泌促進と抑制の仕組みがあります。たとえば、甲状腺ホルモンの分泌が低下した場合、血中甲状腺ホルモン濃度が低下し、脳下垂体はそれを感知してTSH分泌が増します。一方、血中甲状腺ホルモン濃度が上昇すると、脳下垂体はそれを感知してTSHの分泌を減らします。甲状腺は代謝や活動性を高めるホルモンと考えることができます。過剰では、動悸、多汗、速脈、体重減少、体温上昇、倦怠感が現れやすくなります。反対に不足では、遅脈、冷感、皮膚乾燥、むくみ、倦怠感が現れやすくなります。

 

2 副甲状腺(上皮小体)について

副甲状腺は上皮小体とも呼ばれ甲状腺の裏側にある米粒の半分くらいの大きさの人体最小臓器です。甲状腺左右両葉背側で上下に2対、合計4個の場合が通常です。副甲状腺の最も大事な働きは副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌していることです。カルシウム代謝に関係します。副甲状腺ホルモンはビタミンDと共に、カルシウムを骨から血中に溶出し、かつ腎臓や腸から吸収するなど血中のカルシウム濃度を上昇させる働きがあります。逆にカルシウム濃度が下がると副甲状腺ホルモンの分泌が高まってカルシウム濃度を上げようとするなど、相互に連関し血中カルシウムの濃度が保たれています。

 

3 副腎について

多くの種類のホルモンを産生する内分泌器官である副腎は身体の奥深く腎臓の頭側に位置する小さな三角形の臓器です。腎臓とともに脂肪組織と中にある線維性の膜である腎筋膜(ゲロータ筋膜)に内包されています。左右に1つずつありそれぞれ大きさ3-5cm、重さは約5gです。副腎を栄養する動脈の変異は多彩ですが、下横隔動脈からの上副腎動脈、大動脈からの中副腎動脈、腎動脈からの下副腎動脈の3本あることが普通でいずれも副腎流入時には細い血管である場合が多いです。副腎から出て行く静脈を副腎静脈(もしくはcentral vein)と言い右副腎静脈は下大静脈へ、左副腎静脈は左腎静脈へ合流しています。副腎は半月状の形態で2層構造です。外側にある皮質と内側の髄質にわかれています。副腎皮質からは、コレステロールを原料としたステロイドホルモンである副腎皮質ホルモンが分泌されます。副腎皮質ホルモンにはコルチゾール、アルドステロン、DHEASがあり糖・脂質・蛋白代謝、抗炎症・抗アレルギー作用を有しています。生殖機能に関与する性ホルモン(アンドロゲン)もあります。一方、副腎髄質からは、カテコールアミンホルモンであるアドレナリン、ノルアドレナリンが分泌され、血圧上昇作用、心臓賦活作用、糖・脂質代謝作用を行っています。副腎の病気には悪性(癌)もありますが、ホルモン産生に関係する場合が多く前後でのホルモンのバランスを考慮しなければなりません。片方の副腎を摘出するケースではいずれのホルモンも残りの副腎で補充可能です。注意しなければならないのは両方副腎を摘出するケースです。ホルモンのなかで副腎皮質ホルモンの一種であるコルチゾールは生きるためには必須です。炭水化物、脂肪、タンパク質の代謝を制御し生体に不可欠であるため、両側の副腎摘出が必要なケースでは必ず補充しなければなりません。

 

甲状腺外科方針②.png

                         黄色の部分が副腎です(左右1対)                          

 註:「内分泌外科の要点と盲点」(文光堂)より引用

 

4 病気について

以下に内分泌外科診療に関係する疾患について説明いたします。

~甲状腺悪性腫瘍~(特徴・診断・治療)

甲状腺の悪性腫瘍には、

1.乳頭がん

2.濾胞がん

3.髄様がん

4.未分化がん

5.悪性リンパ腫

があります。

6.補足説明:(イ)低分化がん    (ロ)微小がん

 

検査としては、血液検査、超音波検査(必要により穿刺吸引細胞診)、喉頭ファイバー、CT等をルーチンとし、進行度に応じてシンチグラム(甲状腺、骨)、食道造影もしくは食道内視鏡(食道浸潤が疑われる場合)、気管支鏡(気管浸潤が疑われる場合)等を施行する場合があります。これらの検査により殆んどの場合確定診断に至ります。進行度やがんの種類(組織型)に応じて治療方針が決定されます。

 

 乳頭がん(Papillary carcinoma)

甲状腺がんの中で一番多く、当科においても甲状腺がん手術症例の90%以上に相当しています。顕微鏡で観察したがん細胞が「乳頭」状の発育を呈しているのでこういう呼称が与えられています。がんの中では性格がマイルドであり発育も緩徐なケースが殆どです。しかし独立した分類となった低分化がんあるいはtall-cell variantと呼ばれるグループにはがんとしてかなり悪性度の高い場合もあります。検査では上記ルーチン検査を施行して診断に至りますが、甲状腺近傍には気管、反回神経、食道、総頸動脈、内頸静脈、副甲状腺といった重要な臓器が存在するため、がんの占拠部位や進展度によっては浸潤範囲を評価することが必要になります。乳頭がんは頸部リンパ節転移を比較的高率に認め、また反回神経浸潤例では嗄声を認めることもあります。

【治療方針について】

がんが片側に存在する場合:low(低)リスク群では片側葉切除+頸部リンパ節郭清を施行しています。リンパ節郭清は通常ガイドラインに従いcentral zoneの郭清(CCND)をルーチンとしています。以下もご参照下さい。

機能温存を追求した甲状腺標準手術~マイクロサージェリーと自家移植の活用~

 

がんが両側に存在する場合やhigh(高)リスク群(がんが巨大で甲状腺被膜を超えるケース=Ex+、腺内多発、両側頸部リンパ節転移、家族性、等総合評価で判定)の場合:全摘(場合により亜全摘もしくは準全摘)+頸部リンパ節郭清を実施いたします。リンパ節郭清はCCNDが基本ですが、リンパ節転移の術前評価によりlateral zoneリンパ節郭清(MRND)を施行する場合もあります。リンパ節郭清時には副甲状腺(通常4腺)をリンパ節とともに摘出する結果となる場合が多いため、病理迅速診断で一部切片を確認の上、細切の上胸鎖乳突筋内に自家移植致します。既に肺等に転移を認める症例では、一般に全摘後内照射治療等セカンドステップの治療を実施いたします。

手術時間の目安は片葉切除+CCNDで30-60分、全摘+CCND(MRND)で60-75分程度です。副甲状腺自家移植を追加する場合がほとんどでその場合、術中迅速診断(病理)待ち+移植のため10-20分程度追加となります。

 

*気管・食道合併切除について

甲状腺はその解剖学的位置から、局所において高度に進行した場合気管食道に浸潤するリスクを有しています。特に気管は甲状腺後面が直接連続しているため気管浸潤例は稀ではありません。しかし粘膜面(気管の内側)まで深く浸潤しているケースはそれほど多くはありません。気管浸潤が疑われる場合には、気管支ファイバーを含む術前検査できっちり浸潤の有無と程度を評価します。その上で以下のような独自の術式基準を設けて、安全かつ確実、そして根治性を重視いたします(大阪警察病院内分泌外科術式選択基準:Tori基準) 。粘膜面まで浸潤していなければ可能な限りshaving(気管前面をメス等で削り取ること)をしてがんを切除することを基本としています。気管粘膜面に明らかに浸潤している場合にはその浸潤範囲によって、気管合併切除の術式を選択します。すなわち浸潤範囲が水平方向において1/2周以上であれば環状切除を選択します。一方1/2周以下であれば窓状切除、耳介軟骨DPflap(deltopectorial皮弁)再建を施行しています。耳介軟骨を使用するケースでは、形成外科と共同で前もって耳介軟骨を前胸部に埋め込んだあと気管切除するという二期的再建方法をとっています。また喉頭まで浸潤している例では喉頭全摘を、縦隔まで伸展しているケースでは開胸(胸骨切開)を考慮いたします。 (詳細は該当項を御参照ください)

*術後のこと、特に合併症について

周術期合併症については、反回神経麻痺(嗄声やむせ)、低カルシウム血症(指先や口唇の痺れ)、リンパ漏、以外に喉頭浮腫や術後出血など生命の危険に繋がる重篤なものがあるとされますが、当科では丁寧な手術手技と周術期チームによる安全重視の術後管理で死亡率0%、合併症もほぼ0を達成しています。手術後には、甲状腺ホルモン剤以外にビタミンD剤、カルシウム剤の服用が必要なことがあります(特に甲状腺全摘)。ただし副甲状腺自家移植例では術後2-3ヶ月でビタミンD剤とカルシウム剤は不要となります。退院後は定期的に受診していただき、再発転移の有無を確認します。大阪警察病院内分泌外科では手術関連死亡率=在院死亡率=0%を達成し、さらに極めて再発率が低く、良好な生命予後を得ております。

*内視鏡手術(Tori法:先進医療A)および小切開MHM手術(新Tori法)について

(該当項を御参照ください)

 

 濾胞がん(Follicular carcinoma)

当科では乳頭がんに続いて症例数が多くなっています。ゆっくりと発育しおとなしいタイプが殆どです。このがんで注意しなければいけないのは良性の濾胞腺腫と鑑別困難である場合が多いことです。ルーチン検査にて、細胞診class III以上を通常手術適応としていますが、細胞診の評価が困難な場合も多いため、

・ 超音波所見で悪性が疑われる場合

・ 経過観察中に腫瘍に増大傾向が認められる場合

・ 腫瘍径が大きい場合(4cm以上)

・ 血液検査異常(サイログロブリン高値)

・ 頸部圧迫症状など有症状

といった項目を総合的に考慮し手術適応として手術を施行するケースもあります。

【治療方針について】

殆どのケースで腫瘍を含む甲状腺部分切除、葉切除ですが、場合により甲状腺全摘術が必要となります。手術によってがんの「取り残し」のない治癒切除が極めて重要です。肺や骨などに転移が出現するケースもあり、定期的に外来フォローが必要です。術後のこと、特に周術期合併症については乳頭癌と同様です。大きさ等許容範囲であれば内視鏡手術が適応可能となります。予後不良な「広範浸潤型」では術前診断可能な場合が多く、再発や肺転移のリスクを考慮すると全摘が必要となります。術前良悪性の正診が得られない場合術中迅速診断を実施いたします。最終病理診断で良性(濾胞腺腫)か悪性(微小浸潤型)が決定することも多いので、追加治療や再手術が必要とならないよう十分留意した術式を考慮しています。

3.髄様がん(Medullary carcinoma)

甲状腺の濾胞細胞から発生するカルシトニンを分泌するC細胞由来のがんです。甲状腺がんの中では1-2%程度と頻度はかなり少ないがんです。散発性の場合も多く見られますが、なかには血縁者の約半数に同じ疾患を認める常染色体優性遺伝疾患として副腎や副甲状腺に病変を伴う場合もみられます(多発性内分泌腺腫症MEN:総数の約1/3)。CEA、カルシトニンを含めた血液検査、穿刺吸引細胞診等で甲状腺について診断をつけます。診断がなされれば必ずCT、超音波等により他臓器にも病変を認めないかどうか全身検索いたします。MENの可能性を考慮するのです。MENの可能性があり、かつご希望の方には遺伝学的検索を施行します(相談致します)。

【治療方針について】

遺伝性の髄様がんでは多発性が多いことや再発リスクを考慮して甲状腺全摘とリンパ節郭清が基本となります。散発性では葉切除など縮小手術が可能と考えられる場合もあり、ケースに応じて考慮いたします。髄様がんは手術以外に有効な治療方法は現在のところありません。注意しておくべきことは遺伝性髄様がんに褐色細胞腫(副腎腫瘍)を合併する場合です。異常高血圧を認める頻度も高く、副腎腫瘍の手術が先行されます。褐色細胞腫の手術では安全な術前―術中―術後管理、全身管理が不可欠です。当院では安全な全身管理可能であり、他科(麻酔科、ICU、循環器科、内分泌内科等)と連携して万全の体制で治療にあたります。大阪警察病院内分泌外科では副腎腫瘍の診療にも重点をおいています。腹腔鏡手術などで対応し良好な成績を得ております( 死亡率0、合併症0:手術実績参照 )

 

4.未分化がん(Undifferentiated anaplastic carcinoma)

未分化がんは甲状腺悪性腫瘍の約1%と稀な疾患です。未熟な細胞から発生するがんですが、初めから未分化がんとして新生するのではなく、乳頭がん・濾胞がんなどの母地があって長い担癌状態の中で変異発症するものと考えられています。予後は極めて不良であり無治療では2,3ヶ月の予後とされます。通常、臨床経過、画像診断、細胞診による総合的診断、あるいは組織診断で確定にいたります。

【治療方針について】 腫瘍が急速に増大し気管食道など重要臓器に容易に浸潤し。緊急事態に至る場合があります。クライシス回避的に外科的治療を施す場合も稀にありますが、一般に治癒切除可能なケースは極めて稀で、喉頭全摘等、拡大手術により肉眼的にがん遺残のない切除を施行しても予後は極めて不良です。通常放射線療法、化学療法を組み合わせた集学的治療による効果に期待します。大阪警察病院内分泌外科では未分化がんの治療にも積極的に取り組んでおり、独自の放射線化学療法プロトコールがあります。2年以上、中には5年以上の生存例をみるなど大きな成果をあげています。

 

5.悪性リンパ腫(Malignant lymphoma)

悪性リンパ腫(ML)は全身いたるところにある無数のリンパ組織が起源になります。甲状腺はリンパ組織ではありませんが、橋本病はリンパ球が浸潤する病気であるためそれが母地となってMLを発症することがあります。比較的珍しい腫瘍であり甲状腺悪性腫瘍の2%程度とされています。急に甲状腺が腫大したり、固く腫れてくるといった症状が現れることがあります。大きくなって声が嗄れたり、呼吸が苦しい、などの症状が出現することもあります。上記慢性甲状腺炎(橋本病)を基礎疾患として有する場合が多く、橋本病における血液検査や画像診断の注意深いフォローが必要です。臨床経過をもとに、超音波と穿刺吸引細胞診でこの病気を疑います。細胞診のみでは診断にいたらず、生検、あるいは診断的治療としての甲状腺切除により組織学的診断を得ることもあります。

【治療方針について】

悪性リンパ腫ではタイプや病期によって治療方針が異なります。全身的な諸検査により病期評価をした後、通常放射線化学療法を施行します。奏功率は高く近年では予後の向上が見られます。組織や病期によっては甲状腺全摘等の手術を実施する場合もあります。

 

6.補足説明   (イ)低分化がん

低分化癌(Poorly differentiated carcinoma): 組織学的に低分化成分が含まれるがんのことを低分化がんと呼びます。以前は本来分化がんである甲状腺乳頭がん(や濾胞がん)の範疇に入れられ、低分化成分を含むものという扱いをされる場合が多かったのですが、そういった分化癌より予後が不良であるため現在では独立した分類として扱われています。通常の分化癌に比べ相対的に進行が早く予後も不良です。悪性度としては分化がんより高く、未分化がんより低い位置になります。分化がんと比較してより慎重な術後フォローが必要です。

6.補足説明   (ロ)微小がん

微小がん(Microcarcinoma of the thyroid):大きさが1cm以下のがんの呼称です。微小がんで組織が乳頭がんの場合非常に緩徐に進行するとされ、経過観察可能という指摘がなされています。循環器や呼吸器などに重篤な併存症があり全身麻酔自体にリスクがある方や、手術に対する異常な恐怖心がある場合など経過観察をすることは選択肢として成り立つと考えています。しかしながら、大阪警察病院内分泌外科では微小がんの経過観察に対しては極めて慎重な対応をとっています。その理由を列挙いたします。

(1)微小がんの経過観察を肯定的に扱う施設ですら、術前明らかなリンパ節転移がある場合は再発率が高く手術適応としています。リンパ節転移の有無については正確な術前診断は不可能です。超音波やCTで見逃すようなサイズの小さなリンパ節転移があるのは日常茶飯事です。また術後の病理組織学的検討で微小癌におけるリンパ節転移陽性率は非微小癌とあまり差がないほど高いとされています。

(2)微小がんとして発見されても、発見されたのが偶々後に悪性度の高いがんの発生初期である可能性が否定できません(すべての癌は「微小がん」を経過していると考えられます)。

(3)麻酔や手術リスク・合併症に対する恐怖心故に経過観察を選択しても、経過観察中に担癌状態であるというさらに大きな恐怖心が生まれます。フォローのための様々な負担も決して小さくありません。

(4)麻酔や手術に対する病院の体制や術者の技量の心配があるのなら、麻酔やICUのソフト・ハード両面に充実した施設を選択し、経験豊富で合併症発生率の少ない外科医師を選択すれば解決します。

(5)(重要な問題です)手術により大きな手術痕が発生することで精神的に立ち直れないダメージを受けるということであれば、手術痕が極めて小さく根治性とも両立した内視鏡手術や同様な小切開手術を選択する方法があります

微小癌が発声に関係する反回神経や上喉頭神経外枝に近接している場合経過観察はむしろ禁忌です。近々反回神経が完全破壊され、健康時の声を喪失する可能性があります。

 

~甲状腺良性腫瘍~(特徴・診断・治療)

甲状腺の良性腫瘍には、

1.腺腫様甲状腺腫

2.甲状腺嚢胞

3.濾胞腺腫

4.プランマー病    があります。

 

1.腺腫様甲状腺腫(Adenomatous goiter)

腺腫様甲状腺腫の本体は腫瘍ではなく過形成です。左右の甲状腺に大小色々な大きさのしこりができることがあります。首の腫脹や症状は様々ですが全体的に腫脹する場合もあります。定期的な診察が必要です。気管や食道を圧迫するなどの不快な症状が出現したり、反回神経を圧迫して嗄声を認める場合には手術適応とすることがあります。また縦隔内甲状腺腫として尾側に巨大な腫瘍を形成することもあり、増大すれば気道閉塞を発症し生命が脅かされる場合もあります。胸骨縦切開移行への準備をした上で可及的に早く手術する必要があります。

2.甲状腺嚢胞(Cyst)

甲状腺の中に液体袋状のものができます。大小さまざま、数も多寡があります。大きくならなければ通常症状はありません。嚢胞部分以外に充実部分を有する場合には注意が必要です。嚢胞を形成する癌などの場合があるからです。悪性でないかどうか穿刺吸引細胞診が必要なこともあります。腫瘍径が大きい場合や悪性に伴った嚢胞の場合には手術的加療が必要です。

3.濾胞腺腫(Follicular adenoma)

濾胞腺腫は被膜に包まれ境界明瞭な腫瘍で多くは単発です。圧倒的に女性に多い傾向があります。通常症状が発現しにくく経過観察が可能です。しかし(1)悪性腫瘍(濾胞がん)の可能性がある場合(濾胞がんの項参照)、(2)腫瘍サイズが大きい場合(4cm以上)、(3)機能性結節としてホルモンを産生し結果として甲状腺機能亢進を呈する場合(Plummer病)、(4)気管や食道に圧迫症状が出現した場合、等では手術を考慮すべきと思われます。尚、大阪警察病院内分泌外科では5㎝以下のケースで内視鏡手術を考慮いたします(先進医療A)。

4.プランマー病(Plummer disease)

バセドウ病のように甲状腺全体がびまん性にホルモン過剰になるわけではなく、腫瘍部分が甲状腺ホルモンを過剰に分泌している状態をいいます。普通の甲状腺腫瘍の場合は甲状腺ホルモンを分泌しません。「自律機能性甲状腺結節 Autonomously functioning thyroid nodule(AFTN) 」とも呼ばれ、単発では「過機能性甲状腺結節Hyperfunctioning thyroid nodule」、多発では、「中毒性多結節性甲状腺腫Toxic multinodular goiter(TMNG)」と呼称されます。ヨードによるシンチグラフィーが診断に有用です。治療としては手術により腫瘍を摘出します。

 

~甲状腺ホルモンに関する疾患~(特徴・診断・治療)

甲状腺ホルモンに関する疾患には、

1.甲状腺機能亢進症(バセドウ病)

2.亜急性甲状腺炎

3.甲状腺機能低下症

4.慢性甲状腺炎     があります。

 

1. 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)(Grave's disease)

甲状腺が腫大し甲状腺ホルモンが過剰に作られます。20-30代の比較的若い世代に発症することが多い甲状腺機能亢進症です。バセドウ病は自己免疫疾患の一つと考えられています。この自己免疫疾患とは自分自身の体を攻撃目標とする抗体を作ってしまう病気であり、バセドウ病ではTSH受容体抗体が原因と考えられています。バセドウ病は家族歴を有することもあり遺伝的な素因があるとも言われています。代表的な症状(3徴)は、甲状腺腫大、頻脈(動悸)、眼球突出です。すべてがそろうとは限らず、多汗・体重減少・疲労感・振戦・息切れなどの症状発現も見受けられます。診断に際し、症状や臨床経過もさることながら採血や画像診断が決め手となります。甲状腺ホルモン検査においてfreeT4高値、TSH極低値となります。重要な項目としてTSH受容体抗体(TRAb)の測定がありこの抗体が存在すればバセドウ病と確定されます(類似の抗体もあります)。超音波検査では甲状腺の大きさ、血流、腫瘍(悪性含)の合併を調べます。またCT検査では全体のボリュームを測定します。放射性ヨード摂取率をRI検査として実施する場合もあります。治療方法には、(1)内服薬治療、(2)放射性ヨウ素(アイソトープ)治療、(3)手術療法、と大別されますが、どの方法を選ぶかは病状、年齢、社会的状況などで変わります。一般に(1)抗甲状腺剤摂取から始めることがほとんどです。代表的な治療薬にはメルカゾールとチウラジール(プロパジール)がありますが、定期的にホルモン測定をしながら薬の量や投薬方法を調整します。病状が軽快すれば抗甲状腺薬の必要量が減少し、1日1錠から2日に1錠くらいで半年以上コントロール後抗甲状腺薬の中止を考慮します。最も留意しておきたいことは副作用です。薬疹、かゆみといった比較的軽いものから肝機能障害や無顆粒球症といった重篤になりえるものまであります。無顆粒球症では1000人に1人程度の頻度ですが、体の抵抗力がなくなり高熱を呈して、放置により生命が脅かされるリスクとなり早急な治療が必要です。(1)で副作用発現時や寛解が得られない時には、(2)(3)を考慮します。(2)放射性ヨードを使ったアイソトープ療法という治療があります。放射性ヨードのカプセルを内服する治療です。問題点としては甲状腺機能低下症になる率が高いことと、眼症状の悪化(約1%)があります。(3)手術療法:甲状腺を切除することによりホルモンの過剰産生を是正します。全身麻酔での手術です。従来残存甲状腺の量を2-4gとする亜全摘が実施されるケースが多かったのですが、この場合術後数年で再発する可能性が比較的高率にあります(報告により10-30%)。このため大阪警察病院内分泌外科では「超亜全摘術」を実施し残存甲状腺量を2g以下におさえております。

2.亜急性甲状腺炎(Subacute thyroiditis)

甲状腺に何らかの原因で炎症が生じ甲状腺ホルモンが血中に漏れ出す状態です。甲状腺が硬くはれ、痛みを生じます。通常自然治癒で再発は珍しいです。原因については鼻やのどの炎症に続いて起こることも多いためウイルス感染の可能性が指摘されています。血液検査上は炎症所見(CRPなど)の上昇を認めます。一過性に甲状腺機能亢進を認めますが、ヨード摂取率の検査等でバセドウ病との鑑別は比較的容易です。投薬が必要なときは副腎皮質ホルモン剤が非常によく効きます。

3.慢性甲状腺炎(Chronic thyroiditis)

慢性甲状腺炎は橋本病とも呼ばれる自己免疫が原因の炎症です。30-40代の女性に多い病気とされます。甲状腺は腫大することが多いですがその程度は様々です。甲状腺機能が正常の場合症状は顕著ではありませんが、20-30%のケースで甲状腺機能が低下し、顔や手足のむくみ、乾燥、体重増加など、特有の症状が出現します。甲状腺ホルモン検査や自己抗体価(抗Tg抗体、抗TPO抗体)、画像診断、穿刺吸引細胞診などにより診断いたします。 甲状腺機能正常では無治療です。甲状腺機能低下があれば甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS®)服用が必要となります。ヨード(海藻類等に含まれる)の採りすぎによる症状増悪に注意します。また喫煙も増悪因子です。甲状腺が異常に腫大して気管を圧迫して呼吸苦が生じ、手術を要するケースも稀にあります。

 

~副甲状腺の疾患~(特徴・診断・治療)

1. 原発性副甲状腺機能亢進症(Primary hyperparathyroidism)

副甲状腺に腫瘍(腺腫、がん)が発生しホルモンが過剰に分泌されています。この結果、骨からカルシウムが血液中に溶け出し血液カルシウム値が高くなります。長く続けば関節痛が生じたり骨折しやすくなる、腎結石あるいは尿路結石が発生しやすい、高カルシウム血症による諸症状がおこるといった変化が現れます。高カルシウム血症の症状は多彩で、のどが渇く、疲れやすい、吐き気、いらいら、筋力低下などがあります。検査としては血清、尿中カルシウム、副甲状腺ホルモン(intact-PTH)などの測定 、超音波、CT、副甲状腺シンチグラム(MIBI)などを実施して診断を確定します。副甲状腺は通常4腺ありますが、腺腫は単発がほとんどです。治療としては腫大した副甲状腺腺腫を摘出いたします。カルシウムが異常に高いときには神経学的な症状があったり生命に関わるリスクもありますので早急な入院と治療(補正)が必要です。

 

2. 二次性副甲状腺機能亢進症(Secondary hyperparathyroidism)

副甲状腺以外の病気が原因で副甲状腺ホルモンが過剰となり血中カルシウム濃度が上昇する病気を二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症といいます。主たる原因として慢性腎不全があります。慢性腎不全になると、、活性型ビタミンD欠乏と尿中リン排出低下が起こります。活性型ビタミンD欠乏により腸でのカルシウム吸収が低下するため低カルシウム血症を起こします。一方、尿中リン排出低下でも結果として低カルシウムが助長されます。低カルシウム血症が生じやすくなるとこれを起こさないように体内で副甲状腺ホルモンが刺激され(intact-PTH高値)、結果として骨からカルシウムが溶出します。血中カルシウムの上昇により骨以外の部位に石灰化が発生しやすくなります(異所性石灰化)。動脈硬化や関節炎が起こり易くなります。これが腎性副甲状腺機能亢進症といいます。予防には食事療法、リン吸着剤の内服、活性型ビタミンD3の内服が重要です。しかし病気が進行した場合にはエコー・CT・MIBIシンチグラフィなどで腫大腺を検査し、手術等が必要となります。手術では、副甲状腺を全部摘出しその一部を前腕などに移植する方法が一般的です。

 

3. 副甲状腺のう胞(Parathyroid cyst)

副甲状腺のう胞には2つの種類があります。機能性副甲状腺のう胞と非機能性副甲状腺のう胞です。非機能性副甲状腺のう胞はほとんど症状を認めず、経過観察や内容液の吸引で対応可能な場合がほとんどです。一方機能性副甲状腺のう胞の場合は原発性副甲状腺機能亢進症のようにホルモンが上昇することによる症状発現を認め、諸検査の上手術(摘出)を要することもあります。

 

5 副腎の病気について

副腎の病気のうち外科的治療の対象となる腫瘍性のものではホルモンを産生するタイプである(イ)「機能性腫瘍」と産生しない(ロ)「非機能性腫瘍」に大別されます。機能性でも非機能性でも悪性例(副腎癌)は手術適応を考慮しますが、共に悪性例はまれです。(イ)機能性腫瘍は内科的治療抵抗性の場合を含め、それぞれの疾患による多彩な症状(高血圧や糖尿病、電解質異常など)から手術適応を考慮しなければなりません。一方(ロ)非機能性腫瘍は、大きさが大きれば悪性の可能性が高まるため4cm以上を目安として手術を考慮いたします。大阪警察病院内分泌外科では腹腔鏡手術を積極的に実施しております。 副腎腫瘍で手術適応となる場合がある主要疾患を以下に示します。

1.クッシング症候群

2.原発性アルドステロン症

3.褐色細胞腫

4.非機能性副腎腫瘍

 

~副腎の疾患~(特徴・診断・治療)

1.クッシング症候群 (Cushing's syndrome)

クッシング症候群は、コルチゾールが過剰な状態で原因として副腎でのコルチコステロイドの過剰産生を引き起こす腫瘍です。クッシング症候群では胴回りに過剰な脂肪がつく中心性肥満、満月様顔貌、などかなり顕著な身体的特徴があります。また高血圧、糖尿病、多毛、筋力低下、無月経、易感染症、など程度も様々ですが、多彩な症状が出現します。コルチゾールが過剰な状態の原因としては、副腎自体に問題があるか、下垂体からの刺激(ACTH)が過剰(クッシング病)かどちらかのパターンがありますが、本邦では副腎皮質腺腫によるクッシング症候群が多い傾向にあります。診断については、ホルモンの過剰産生は、採血と尿検査で行います。超音波とMRI、CT、131Iアドステロールシンチグラムのような画像診断も併施いたします。コルチゾール値が高ければデキサメタゾン負荷試験を実施します。デキサメタゾンは下垂体抑制により副腎のコルチゾールの分泌を抑えます。下垂体に原因があればある程度コルチゾールが下がります。しかし、もし抑制されなければ診断は確定します。特殊な例として小細胞肺癌などの下垂体外の腫瘍がホルモン(ACTH)を産生する場合があることに留意しなければなりません。治療法は原因が副腎、下垂体、あるいは別の部位にあるかによって異なります。下垂体腫瘍が原因であれば手術や放射線療法が必要です。副腎腫瘍は手術で切除されます。典型的なクッシング症候群の症状を欠くサブクリニカルクッシング症候群(SCS)という概念も提唱されていますが、腫瘍摘出基準の考え方は診断基準に基づいて十分吟味して進めるようにしています。

 

2.原発性アルドステロン症(Primary aldosteronism)

アルドステロンは副腎で産生されるミネラルコルチコイドでナトリウム貯留およびカリウム喪失をもたらします。原発性アルドステロン症は、副腎皮質におけるアルドステロン産生によるアルドステロン症のことです。副腎皮質での過形成,腺腫,または癌による場合があります。高ナトリウム血症、循環血液量過剰、低カリウムによるアルカローシス等が生じ、その結果、発作性脱力、感覚異常、テタニー(手足の痺れ)などを引き起こします。多尿、多飲を伴う低カリウム血症性腎症も時にみられます。しかし多くの場合、軽度から中等度の高血圧が最も多い症状です。診断には血漿アルドステロン濃度とレニン活性を測定します。CT、MRI等画像診断も実施します。原因が腫瘍であるか過形成であるかについても明らかにします。両側副腎静脈へのカテーテル挿入後のコルチゾールおよびアルドステロンの測定により一側性(腫瘍)か両側性(過形成)かを確認する場合もあります。治療は原因により分かれます。腫瘍は可能であれば切除しますが腹腔鏡で切除すべきです。過形成ではスピロノラクトン(薬物)で血圧を正常化します。

 

3 . 褐色細胞腫(Pheochromocytoma)

副腎髄質や傍神経節から発生するカテコールアミン産生腫瘍で母地はクロム親和性細胞です。原因として、家族内発症タイプではRET癌遺伝子やVHL癌抑制遺伝子に突然変異が見られるものがあります。高血圧、高血糖、代謝亢進、発汗多量、頭痛などの症状を認めます。診断のための検査としては、血液検査および尿検査でカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)、メタネフリン、ノルメタネフリン、バニリルマンデル酸(VMA)も測定します。本態性高血圧との鑑別のためにα2受容体刺激薬クロニジンを投与してノルアドレナリン分泌を抑制する試験ですが、本態性高血圧であれば抑制されて血圧が低下し、一方低下しなければ本症と言えます。超音波以外にCT、MRIを実施し局在を調べます。131I-MIBGシンチグラフィで集積を見ます。治療としては腫瘍摘出術が第一選択です。開腹手術も多いのですが、血圧コントロールが良好で良性腫瘍と考えられる場合は腹腔鏡下での摘出が勧められます。術前からα1遮断薬やβ遮断薬を投与し血圧調整します。術中の血圧、脈拍、血糖モニターおよびコントロールと術後の低血圧に留意せねばなりません。一方、悪性褐色細胞腫の場合は手術により出来るだけ腫瘍を取り除き、抗癌薬による化学療法、動脈塞栓療法、放射線療法(MIBG内照射療法)など集学的治療を実施いたします。

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4 . 非機能性副腎腫瘍 (non-functioning adrenal tumor)

画像診断で偶発的に副腎腫瘍が発見されることがあります。非機能性であることを副腎ホルモン測定によって確認します。小型の副腎腺腫(2cm未満)は非機能性がほとんどです。転移性腫瘍の可能性があれば原発巣検索を考慮します。6cmを超える場合は悪性の可能性が比較的高くなり手術を考慮します。良悪鑑別困難で充実性で4cmを超えていれば切除すべきです。4cm以下であれば慎重に経過観察することが多くなります。

 

~多発性内分泌腺腫症~(特徴・診断・治療)

多発性内分泌腺腫瘍症(MEN)とは、複数の内分泌臓器に腫瘍が生じる病態です。家系内で病気が遺伝することが稀ではありません。タイプとして1型と2型(A、B)に分類されています。多発性内分泌腺腫瘍症1型は、下垂体、副甲状腺、膵臓に腫瘍が発生します。MEN1と名づけられた遺伝子に変異が認められます。多発性内分泌腺腫瘍症2型は、甲状腺、副甲状腺、副腎に腫瘍が発生します。レット(RET)と名づけられた遺伝子に変異が認められます。MEN1では副甲状腺機能亢進症、下垂体腺腫、膵消化管内分泌腫瘍が三大病変で、副腎や皮膚、胸腺などにも腫瘍が発生することがあります。MEN2は甲状腺髄様癌、副腎褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症が三大病変で、MEN2Bでは眼瞼、口唇、舌に粘膜神経腫を合併することがあります。治療としては病変の早期に発見による外科的治療ですが、多臓器にわたる病変で異時性のこともあるため複数回の手術を繰り返す場合もあります。

 

~後腹膜腫瘍~(特徴・診断・治療)

後腹膜腫瘍は後腹膜領域(腹部背側)に発生する比較的稀な疾患です。悪性には脂肪肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫などの肉腫、ホルモンを産生する神経節細胞腫(悪性)、悪性リンパ腫等があります。良性では、ホルモンを産生する神経節細胞腫(良性)神経鞘腫、脂肪種、奇形腫などがあります。症状が現れにくく早期発見が困難なことも多いのですが、増大すれば周辺臓器を圧排しいろいろな症状が出現します。超巨大化し体外から腹部腫瘤として触診されることもあります。臨床経過とともに、血液検査、腫瘍マーカー、さらにエコー、CT、MRI、PET、シンチグラム検査等の画像診断を総合的に診断します。診断困難な場合、生検による病理組織診断が必要ですが、身体の奥深くにあるため体表からの生検が困難で、手術による摘出標本の詳細な検討で判明することもあります。治療法は多くの場合手術による摘出です。組織型によっては放射線療法、化学療法を実施する場合もあります。手術については、巨大腫瘍では隣接臓器への浸潤等のため他臓器も合併切除される場合があります。術後は診断結果から必要とされる検査を定期的に行い再発の有無を確認します。

 

5.甲状腺悪性および良性疾患に対する内視鏡手術(先進医療A:Tori法)について

 頸部の創は非常に目立ちやすく大きな創痕は術後も患者さんを苦しめます。皺のために創痕が目立ちにくい高齢者では、皺に沿うか皺に平行な通常襟状切開(8cm程度)であまり目立つことはないかもしれません。一方、若年者は肌に張りがあり創が目立つ場合が多いものです。手術の整容性(美容面)、低侵襲性、創痛の軽減を考慮して、大阪警察病院内分泌外科では倫理委員会承認のもと内視鏡手術を含めた「小切開手術」に取り組んで参りました。本邦での歴史を辿れば、1998年にVANS法(清水らによる)として主として良性疾患を対象に甲状腺内視鏡手術が始まりました。しかし、実際は甲状腺疾患における手術適応症例はほとんどが悪性例です。悪性例(分化癌)では転移の有無にかかわらず、少なくとも中心領域(左右縦隔)の(予防的)郭清は必要ということが一般的です(ガイドライン)。前胸部、腋窩、乳輪からのアプローチでは良性疾患には対応できますが、十分なリンパ節郭清を必要とする悪性例には不可能です。なぜならば十分なリンパ節郭清をしようと思えば頸部から尾側に向かって視野を作り操作を進めることが必須ですが、前胸部、腋窩、乳輪等からのアプローチでは視野もとれず操作もできないことが明らかであるからです(いずれも頭側方向のみの視野確保となります)。また内視鏡の器具は通常手術の器具や私どもが使用しているマイクロサージェリー用の器具と比較すると非常にお粗末で、反回神経周りの操作など繊細な操作には不向きです。気管浸潤や反回神経浸潤があれば対応できません。またもう一点大きな問題としては郭清や広範囲切除をともなう甲状腺癌の手術では頻度が極めて少ないとはいえ、術後出血や喉頭浮腫という重篤な合併症に備えなければなりません。これら合併症に対する処置として頸部に切開創がなければ迅速な対応ができないと考えられます。頸部に新たな切開の上に気管切開が必要とされる状況で対応が遅れれば低酸素による脳障害をはじめ致命的な合併症につながる可能性があります。

 大阪警察病院内分泌外科では頸部に創痕が目立たない「小切開」を置いたうえでの術式工夫により諸問題を克服しました。内視鏡はあくまで外側と背側の視野拡大・明視効果のための道具であり、本方法では通常の繊細な手術器械を使用し、かつ切開創が手術操作部位から最短距離であるため、万一後出血等合併症が発生しても迅速に対応できます。その開発では一般外科(肝胆膵外科等)での豊富な内視鏡・腹腔鏡手術経験にもとづいています。開発の経緯として、通常手術の創を極限まで小さくしたときに、更に安全性を内視鏡の補助と利点で高める、というコンセプトがあり、最終的にhybrid-type内視鏡手術(HET:Tori法)に辿り着いています。いわゆる「内視鏡手術」というより「小切開手術」のジャンルに該当すると言ってもいい方法がこの「ハイブリッドタイプ」です。本方法の優れている点は、創部の整容性と同時に根治性と安全性が完全に両立していることにあります。郭清の問題や通常器具を使用することによる気管や周囲臓器への取り残しのない手技(R0)で根治性を担保しています。最近医療事故や拙劣な手術手技による死亡例が問題となっている「内視鏡外科学会認定手技」関連の肝胆膵領域と同レベルに内分泌外科領域手術も本来最高難度領域であり、手術関連合併症&死亡リスクは本来低くないかもしれません。しかし、私どもが目指す「小切開・鏡視下学会」関連手技:HETはまた異なったジャンルとして状況を打開し、難度を下げました。そして、HET:Tori法においては実施した約300例で、手術関連死亡0%、さらに合併症0%を達成しており、術後生存率100%という根治性との両立をなしえています。またバリエーションとして必要時の外側領域郭清(MRND)、気管浸潤手術(shaving;2小切開(シェーマ参照))なども可能です。次いで対象となる患者さんについてです。「甲状腺癌取扱い規約」では45歳以上がstageI-IVCの6段階の進行度があるのに対して、45歳未満の若年者では予後が良いため肺や骨等の遠隔転移がなければ、仮に局所進行していてもstageIとなります。この観点と、肌に張りがあって皺がなく創部も非常に目立ちやすいという点から45歳未満の方に対して、内視鏡手術の実施を考慮し適応があればお勧めしております(但し、45歳以上の方でもご希望の方には相談に応じることにしております)。頸部に残る創長は葉切除で1.5-2.0㎝(最少1㎝)、全摘で2.0-2.5cm(最少1.5cm)です:写真ご参照。95%以上の方が上記創長におさまりますが、体格や病状により若干延長される場合があります。また、術中高度気管浸潤や反回神経再建等のために通常切開にスイッチする可能性があります(2015年2月までの症例において術中術式変更した症例は皆無)。2014年8月以降、厚生労働省認定先進医療A施設として、大阪警察病院内分泌外科は悪性対応全国4施設、良性対応全国9施設(2015年2月現在)の中にそれぞれ認定され、再度倫理委員会承認のもと実施しています。   

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がん保険では「先進医療特約」があり加入されている方が増加しています。この時は自己負担した金額がすべて保障される可能性が高いので一度ご加入している保険の契約内容をご確認されることをお勧めいたします。

参考資料 1 :内視鏡甲状腺手術成績 先進医療A項目NO55およびNO56 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan03.html

厚生労働省先進医療A施設認定獲得後、2014年8月以降、当科での半年間の開始期実施例32例の手術成績を以下に示します。

 

1 症例数 32例

2 良性:悪性 = 8例:24例

3 手術術式 葉切除or部分切除(+リンパ節郭清) 26例 全摘or亜全摘+リンパ節郭清(CCND、MRND)(+気管shaving) 6例 3 手術時間 平均103.3分(55-151)

4 術中出血量 平均17.8 ml(<10-130) 備考:<10mlは10mlとして計算

5 術後合併症 0(皆無)

6 通常手術への変更 0(皆無)
 

 

参考資料2: 

①内視鏡甲状腺悪性腫瘍手術の説明文書(患者さん向け) 内視鏡下甲状腺手術の現状と大阪警察病院での歴史

 内視鏡手術は外科関連疾患のあらゆる領域において普及してきています。甲状腺手術では1997年に世界で初めて報告され、国内でも大学病院を中心とした甲状腺外科主要施設で実施されています。内視鏡下甲状腺手術はそのアプローチにおいて様々な方法が報告されています。腋窩、前胸部、乳輪などからのアプローチがありますが、絶対好ましいという定型化したものは現在のところありません。また悪性腫瘍に対してはリンパ節を十分郭清できないなどの問題があります。一方、大阪警察病院では、「内視鏡補助下」小切開手術を「小切開甲状腺手術」の分類として2002年より始めています。これは、通常手術での創(8-10cm)を小さくしただけの小切開手術(5cm程度)を実施時に、切開部から内視鏡を同時に挿入して拡大視効果や明視性を向上することを目的としていました。創を小さくすると手術がやりにくいので、内視鏡を挿入して視野展開した、というものです。ご案内する「内視鏡下甲状腺悪性腫瘍手術」は、このコンセプトを更に煮詰めて創を非常に小さくし、悪性腫瘍に十分対応出来きる新たな工夫とともに発展させたオリジナルな方法です。

手術の方法について(HET:ハイブリッドタイプ内視鏡手術) 

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 (イラスト1:右葉切除)

 

片葉切除では患側鎖骨上に小切開部位(1.5cm)を置きます。そして、目立たない部位(鎖骨下3cm)に5mmポート(内視鏡を挿入する筒のようなもの)を挿入し更に内視鏡の操作性を向上させました(イラスト1)。甲状腺癌ではリンパ節の郭清をしなければなりませんが、縦隔などのリンパ節は頸部の創からのぞきこむようにしなければならず、鎖骨上の創は必ず必要です。そしてその創があれば、リンパ節以外にも甲状腺の中央部分の手術手順は直視下で実施できます。甲状腺の外側は内視鏡を挿入して覗き込むことで、反回神経(声を出すことに関係する神経)や副甲状腺(カルシウムを調節)を大きく、また明るく照らし出し、むしろ非常に安全に実施できます(イラスト2)。

 

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(イラスト2:手術手順) つまり直視と内視鏡のそれぞれのメリットを生かして融合させた方法(HET:hybrid-type endoscopic thyroidectomy)です。全摘では、片葉の時と左右対称な創が加わるということが基本でしたが、より整容性を高める工夫により、左右どちらか主病変側の鎖骨上小切開(2cm)と左右鎖骨下の2ポートで出来るようになりました。この方法が代表的な方法ですが、創の位置や大きさなどは病状や体型によって変更する場合があります(備考:個々のケースで前胸部、腋窩、乳輪等からのアプローチも考慮する場合もございます)。この方法(内視鏡手術)は通常保険診療ではなく、「先進医療」として厚生労働省より認可された一部自己負担の上乗せが必要な方法です。「先進医療」については④をご参照ください。 この方法(内視鏡手術)で手術を受けるかどうかは、あなたの自由意志です。内視鏡手術を選択しない場合でも以下の方法(通常保険診療)があります。これらの方法はすべて保険負担となります。

 

③代替となる他の方法(通常保険診療)の説明と比較(長所と短所)について

創の大きさにこだわらなければ従来型の切開(8-10cm)で実施できます。またMHM法(muscle hanging maneuver法)と名付けたオリジナルな極小切開方法もあります(創長2-3cm)。前頸筋群を吊り上げたり、創を左右に牽引することで視野を確保し通常手術を小さな創から実施する方法です。 内視鏡手術と比較した場合の大きなメリットとしては両者ともに入院費用が安くなることがあります。また、後者は前者と全く異なり、かなり創が小さいので内視鏡手術ほどではありませんが、やはり整容性にも留意した低侵襲手術といえます。前者のデメリットとしては、整容性が悪く、創痛や侵襲性の問題もあります。後者のデメリットとしては、内視鏡手術が使えないため視野が悪く、術者にかなりの技量が要求されることです。言い換えれば術者を選ぶ極めて難度の高い手術と言えます。

 

④「先進医療」について

厚生労働省が認めた新しい治療や手術として「先進医療」があります。先進医療は、公的医療保険の対象にするかを評価する段階にある治療・手術などです。先進医療を受けると、診察料、検査料、投薬料、入院料などは公的医療保険が適用されます。ただし、先進医療の技術料は全額自己負担になります。

 

【例】一般の被保険者(70歳未満)で、1ヵ月の医療費が200万円、うち先進医療の技術料が100万円の場合 

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注 : 患者の自己負担30万円のうち21万2,570円は高額療養費として給付されるので、実際の医療費の自己負担額は8万7,430円になる。

⇒ 最終的な患者の自己負担額 先進医療の技術料100万円+8万7,430円=108万7,430円

(上記は一部、公益財団法人生命文化センターHP「先進医療について」より引用)    

 

内視鏡手術を受けるかどうかは、あなたの自由意思です。もし受けなくても不利益はありませんが、内視鏡手術を受けることにやる整容性や安全性などのメリットは損なわれる可能性があります。検査に同意された後も、検査の同意を撤回することはいつでも可能です。わからないことがありましたら下記連絡先までご連絡下さい。                           

大阪警察病院 内分泌外科  06-6771-6051(代表)                                   

外科外来 (備考:内視鏡甲状腺良性腫瘍手術の患者さん向け説明書もございます。)

 

6小切開MHM法(通常保険診療手術:新Tori法)について

「内視鏡手術」は実施上制約があるため、そのノウハウを小切開手術にフィードバックした極小切開手術を新規開発して内視鏡手術にかわり普及につとめています。オリジナルな「muscle-hanging maneuver with bidirectional retraction(MHM-BR)」(別称「新Tori法」)です。 筋肉のつり上げと、小切開創をあたかも宙に浮かぶ円盤のように左右に動かして視野を作り出す方法です。通常甲状腺癌手術では頸部に8-10cmの創痕が残りますが、MHM-BR法(新Tori法)では、葉切除であろうと全摘であろうと、2.0-2.5cmの左右どちらか片側の鎖骨上切開のみです。創部が大きくなる反面、内視鏡手術のような鎖骨尾側のport痕はありません。症例を重ねることによる手術手技の習熟成果があり、最近ではこの原法に基づかない方法(変法)でも小切開手術が達成できています。ただし、注意点として、この方法は術者しか視野が取れない完全な単独手術(solo-surgery)です。内視鏡手術(HET:Tori法)との違いとして、通常保険診療という大きなメリットがある反面、(1)創部が内視鏡手術よりやや大きい(2)内視鏡のモニターがないため、術者間で情報を共有できない(3)モニターがないため明視効果がない、といった欠点があげられます。保険診療へのこだわりがなければ、原則的には内視鏡手術をお勧めしております。

 

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「新Tori法」(創長2cm)術後1年:鎖骨上縁と重なり創痕はほぼわからない。

 

7 気管合併切除(警察病院術式基準:Tori基準と独自の手技)について

頸部は非常に狭く、気管は甲状腺後面が直接連続しているため気管浸潤例は稀ではありません。しかし粘膜面(気管の内側)まで深く浸潤しているケースはそれほど多くはありません。気管粘膜面への浸潤が疑われる場合には、超音波、CT、MRI等の画像診断に加え、気管支ファイバーできっちり浸潤の有無と程度を評価します。その上で術式を決定します。それが以下のような独自の術式基準です。安全・確実、そして根治性の両立をはかります。

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*大阪警察病院内分泌外科術式選択基準:Tori基準)*

「粘膜面まで浸潤していなければ可能な限りshaving(気管前面をメス等で削り取ること)をしてがんを切除することを基本としています。気管粘膜面に明らかに浸潤している場合にはその浸潤範囲によって、気管合併切除の術式を選択します。すなわち浸潤範囲が水平方向において1/2周以上であれば環状切除を選択します。一方1/2周以下であれば窓状切除、耳介軟骨DPflap(deltopectorial皮弁)再建を施行しています。耳介軟骨パッチを使用するケースでは、形成外科と共同で前もって前胸部に耳介軟骨を埋め込んだあと気管切除するという二期的再建方法をとっています。また喉頭まで浸潤している例では喉頭全摘を、縦隔まで伸展しているケースでは開胸(胸骨切開)を考慮いたします。 上記術式選択基準を設けるまでは、殆どの症例で環状切除+端々吻合を実施しておりました。しかし術後管理のリスクに加え、患者さんに強力な頸部固定と安静(写真)を強制する結果になるため、精神的なダメージも大きいものです。そのために条件が整えば耳介軟骨DPflap再建を開発した経緯がありますが実際に実施症例数は著増しております。

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環状切除と比較して、窓状切除、耳介軟骨DPflap(パッチ再建)では、縫合不全とそれによる重篤な合併症のリスクを気管切開併置により回避できます。ただし嚥下訓練や気管切開閉鎖にむけたケアに長期間を要します。

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 DPflap再建では本手術の3週間程度前に前胸部に耳介軟骨を埋め込んで生着させることが必要です。耳介軟骨を摘出した耳においては形状等特に美容面からも損なわれることはありません。

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*気管合併切除、広範囲縦隔切除、広範囲胸部郭清においては、縦隔や胸腔内に進展する癌浸潤部を安全かつ確実に切除するために、「muscle split法」「除胸骨柄window法」といった当科独自の方法で安全かつ根治性のある術式を工夫しております。

 

8 難治性甲状腺癌に対する新規治療(分子標的治療)についてー総合病院として万全の体制

甲状腺癌には予後良好な分化癌である乳頭癌(90%以上)、濾胞癌(5%)と予後不良な髄様癌、未分化癌、悪性リンパ腫(それぞれ1-2%)、と大別されます。当科をご受診される方もほぼ同様な頻度となっております。分化癌は外科治療により良好な予後が見込まれるいわゆる「low risk群」がほとんどですが、一部に「high risk群」の方がおられます。High risk群の患者さんは全摘術+αの手術内容となる場合が多いのですが、手術後にも全身転移や局所再発を来す場合があります。その場合従来方針ではI131(放射性ヨード)内用療法という放射線治療が主体になります。これはヨードが甲状腺に集積することを利用した治療で、放射線を発するヨードのカプセルを飲むことで再発転移部位に取り込ませ癌を内部照射する方法です。内用療法の治療効果がなく更に進行する場合は、一般に予後不良なことが多いとされます。こういったいわゆる「RI抵抗性切除不能難治性甲状腺癌」は甲状腺外科では大きな課題でした。最近になって「分子標的治療薬」が甲状腺癌診療の領域にも登場しました。分子標的治療薬が、他の癌領域から甲状腺領域への適応拡大したり、あるいは新規開発によって難治性甲状腺癌治療の流れが大きく変わろうとしています。分子標的薬は抗がん剤の一種ですから治療効果とともに重篤な、時には致命的な副作用の発現に留意しなければなりません。

 

皮膚、循環器、呼吸器、消化器等広範囲に副作用の発現を来たします。甲状腺専門医の多くは分子標的治療薬を含めて抗癌剤を使用する機会が殆どありませんでした。そこで「がん診療連携プログラム」が立ち上がり、甲状腺専門施設や個人病院など小規模病院では癌を専門的に扱える「高度医療センター」との連携の可能性が模索されつつあります。どういった施設で、どういったタイミングで、どういう患者さんに、どういう方法で処方されるのが患者さんにとって最適なのか?今後議論、検討されることでしょう。大阪警察病院は癌拠点病院としてあらゆる分野の癌診療に重点的に取り組んでいます。15床を有する外来癌化学療法センターhttp://www.oph.gr.jp/medical/center/5.html)をはじめ、臨床腫瘍学会暫定指導医、癌薬物療法専門医、癌治療認定医(指導医)、癌化学療法認定看護師、等の資格を有する多くのスタッフが常勤しています。「がん診療連携プログラム」に参入していますが、参入の有無にかかわらず、既に万全の体制で分子標的薬治療に対応しています。

 

最近、分子標的市販薬第1号としてソラフェニブ(商品名:ネクサバール)が市販されました。当科では発売後多くの適応患者さんに実施しました。発売当初の実施例において、その後の経過から現在までに以下の結果(概略)をえています。

 

(1)病勢増悪を認めた例は今のところなく(最長半年)、部分奏功した症例があった。

(2)副作用による死亡例はなかったものの全例でgrade1(軽微)以上の副作用を認めた。

  Grade3(中止条件)の症例も珍しくなかった。

(3)副作用のために夜間救急外来を受診した症例、緊急入院した症例もあった。

(4)副作用鑑別のために皮膚科、消化器内科、呼吸器科、泌尿器科、循環器科等他科を受診した症例が多数あった。

  (註:(3),(4)については共通カルテのため即時病状把握と対応が可能であった)

(5)副作用のために9割の症例に投薬量の減量が必要であった。

(6)副作用のために3割の症例が中止となった。

 

*ソラフェニブにおいては副作用として、手足症候群(HFS)、高血圧、下痢等消化器症状、肝機能障害、疲労感、ショック、疼痛、脱毛などの出現が割合頻繁にみられます*

 

ソラフェニブは甲状腺癌に先行して肝臓癌や腎癌ですでに適応になっており死亡例を含む重篤な合併症が報告されています。大阪警察病院では消化器内科、泌尿器科で厳重な警戒のもと多数使用されてきました。大阪警察病院では分子標的治療薬使用方法について院内で協議し、ソラフェニブ投薬の実施に際しては、観察入院・服薬および副作用対策指導(教育入院)の観点から原則「入院による服薬開始実施」の方針を取っており、甲状腺癌についてもそれにならっています(入院期間のめやす:10日-2w)。そして使用経験からその方針の合理性が裏付けられました。患者さんに分子標的薬を安心して服用いただける、という観点から下記に適切と考えられる施設条件を下記と定め堅持するべく最大の努力しています。

 

1 服薬開始後いつでも(緊急)入院できる体制。開始時は入院で投薬が望ましい。

2 院内に皮膚科、循環器科、消化器内科、等副作用発現の鑑別や加療可能な様々な診療科の存在が必須である。

3 夜間対応、緊急対応ができ、副作用発現時にいつでも緊急入院可能であること。

4 共通カルテでの病状把握が要求される。

5 医師、看護師、薬剤師等多職種の抗癌剤使用経験豊富なスタッフ外来化学療法センターなどの設備が整っている。

 

もう一点、ソラフェニブの使用に際し非常に重要な事項があります。

「RI抵抗性切除不能」分化癌、が適応になりますが、RI抵抗性については客観性があるものの、「切除不能」については何をもって「切除不能」とするのか、正当に判断しなければなりません。

(a)  肺転移、骨転移等遠隔転移のみ

(b)  気管・食道・血管浸潤例、喉頭浸潤例、縦隔浸潤例、等局所再発

(c) (a)+(b)

(a)の場合は施設に関係なく病勢進行が評価可能です。しかし、相当数あると考えられる(b)または(c)の例においてどうでしょうか?癌浸潤を認める気道粘膜からの出血等癌緊急(oncologic emergency)を回避しなければ急変・急死のリスクがあり、たとえ遠隔転移を伴っていても手術適応がないとは言えません。高度進行癌症例の「センター施設」である当院としては、上記のような切除不能かどうかの正確な判定が要求される症例を多数経験してきました(手術実績参照)。それゆえ、そういった「切除不能」性の判断が可能な施設であると自負しております。

 

大阪警察病院では、24時間緊急対応総合病院として万全の体制で「分子標的治療薬」による難治性甲状腺癌の治療を実施しています。I131およびタイロゲン(リコンビンントTSH)を用いた「I131取り込みテスト」が実施可能であり、また術後に必要な外来ablation、内照射(入院)等実施可能施設との連携も非常にスムーズで日常的に多くの患者さんに実施しています。そして患者さんの予後&QOLを慎重に吟味して、手術・放射線療法・分子標的治療薬の適応とタイミングを決定いたします。

 

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