狭心症 ・心筋梗塞

安定労作性狭心症

冠動脈の狭窄のために、労作時に心筋への血流不足を生じ、胸痛や心電図変化が出現する病気。胸痛などの症状を伴わない場合には無症候性心筋虚血という。治療は主にカテーテルによる冠動脈形成術で、1)バルーン、2)ステント、3)アテレクトミー、4)ロータブレーターなどによって冠動脈病変を開大する。当院では年間400~500症例に対する待期的冠動脈形成術を施行している。一旦開大された病変は半年ほどして再度狭小化することがあり、これを再狭窄現象 (その確率を再狭窄率)という。再狭窄率(冠動脈形成術の再施行率)はこれまで約19%であったが、2004年8月より再狭窄予防効果のある薬剤を付着させたステントである薬剤溶出性ステントが使用されるようになり再狭窄率は10%以下になりました。

不安定狭心症・急性心筋梗塞

不安定狭心症とは、労作性狭心症が新たに生じた場合、狭心症症状の出現頻度が増加したり・持続時間が長くなった場合、安静時に狭心症症状が出現した場合で、急性心筋梗塞へ移行する危険性の高い状態と考えられています。急性心筋梗塞は冠動脈の閉塞・高度狭窄のために心筋への血流が極度に不足して、心筋細胞 が死に至る状態である。このために心機能の低下(心不全)、心破裂、致死性不整脈による生命の危険を生じる。緊急心臓カテーテル検査によって診断し、一刻も早く1)冠動脈形成術、2)血栓吸引療法、3)血栓溶解療法などによる再潅流療法を必要とする。当院では年間約150症例の不安定狭心症・急性心筋梗塞 に対するカテーテル治療を施行している。

陳旧性心筋梗塞

急性心筋梗塞において一旦死に至った心筋細胞は回復しないため、心臓の機能低下が後遺症として残ることになる。機能低下が高度のものでは、労作時の呼吸困難など心不全症状が出現し、過剰な負荷をかけることによって心臓の機能はさらに低下していく可能性があるため、労作の制限が必要となる。致死性の不整脈が出現する危険性も大きくなる。また、一旦心筋梗塞を発症した場合には、原因病変である冠動脈プラークが他にも多く存在すると考えられ、再び心筋梗塞を発症する危険性は高い。治療は、再発予防、心機能維持・改善を目的とした薬物療法と生活改善が主である。

冠攣縮性狭心症

冠動脈の器質的な狭窄は存在しない(あるいは軽度である)が、冠動脈の痙攣(冠攣縮)によって一過性に冠動脈の狭小化や閉塞を来たし、心筋への血流が不足し、胸痛や心電図変化が出現する病気。治療は、冠攣縮を抑制するための薬物療法が主。診断のためには心臓カテーテル検査による、器質的冠動脈狭窄の有無を検索とアセチルコリン負荷テストによる冠攣縮の誘発試験が有用である。

冠動脈疾患の治療法について

冠動脈疾患の治療法には

  1. 薬物療法
  2. 経皮的冠動脈形成術
  3. 冠動脈バイパス手術

の3通りの方法があります。それぞれに長所と短所および適応となる病態があります。

日本および米国の循環器の学会により治療手段や検査の適応などについてガイドラインと呼ばれる指針があります。当科ではそういった指針を踏まえ心臓血管外科と合同で検討会を行いそれぞれの患者さんにもっとも適切な治療法を選択しております。
その上で患者さんには十分な説明を行い現在の医療でベストと考えられる医療を提供しております。
ここでは経皮的冠動脈形成術について説明します。

経皮的冠動脈形成術は年々医学の進歩に伴いその適応は広がっております。 主に対象は日常の生活での胸痛あるいは胸部の不快感で現れる『狭心症』や激しい胸の痛みを伴うことのある心臓の筋肉が壊死(腐り死んでしまう)してしまい命に関わる『急性心筋梗塞』であります。

経皮的冠動脈形成術とは、狭くなった冠動脈を拡げるために行う低侵襲的な治療法であり、経皮的冠動脈インターベンションとも呼ばれています。行う場合には下肢の大腿動脈または上肢の橈骨動脈や上腕動脈からカテーテルという細い管を挿入し、大動脈を通過して冠動脈の狭窄部まで進めて治療を行います。また、当院では一分一秒を争う緊急疾患に対しても救急来院後直ちに緊急冠動脈形成術が可能なように24時間体制をとっております。

経皮的冠動脈形成術について

それぞれの治療法の動画を掲載します。分かりやすいと思いますので参考にして下さい。

バルーン血管形成術

バルーン(風船)を拡張して狭くなった冠動脈を拡げる治療法です。

冠動脈ステント留置術

ステントという拡張可能な小さいメッシュ状の金属の筒を留置して冠動脈を拡げる治療法です。

方向性冠動脈粥腫切除術

冠動脈の血管壁の一部分にだけ刃を当てて、特定の部分だけを削りとる治療法です。現在はあまり行われなくなってきています。

ローターブレーター

バルーンやステントでも拡がらない程、硬くなってしまった冠動脈の狭窄部分を高速で回転するドリルで削りとる治療法です。

血管内視鏡について

当院では当院特有の装置である血管内視鏡を用いることで冠動脈の血管内を観察し、治療に役立たせることが可能となっています。冠動脈造影上は血管内はきれいであっても実は血管内に粥腫と言われるプラークが多量に認められることもあります。また急性冠症候群においては血管内の状態はプラーク及び血栓が多量に 認められる状態となっております。大半の方は見られたことはないと思われます。画像を何枚か提示していますのでどうぞご覧になって下さい。

血管内視鏡検査

当院循環器科では、心臓カテーテル検査の際に冠動脈の血管内視鏡検査を施行して血管内を直接観察することによって治療方針決定に役立てています。
我々の血管内視鏡は世界的にも解像度が高く精密な画像が得られ、研究面でも最先端を進んでいます。
血管内視鏡画像として、正常冠動脈、動脈硬化の進行によって脂質が血管壁に蓄積して生じる黄色プラーク、さらに黄色プラークの破綻像、黄色プラークの破綻によって生じる血栓像を示します。
正常な血管壁は白色ですが、コレステロールなどの脂質が血管壁にたまってくると黄色くなってきます。これを黄色プラークといいますが、黄色プラークが破れると血栓が形成されます。
血栓によって血管内腔が閉塞すると急性心筋梗塞になり、完全には閉塞せずにつまりかけの状態となれば不安定狭心症になります。
急性心筋梗塞と不安定狭心症をあわせて急性冠症候群と呼びます。

正常
軽度黄色プラーク
黄色プラーク
プラーク破綻

我々が施行した血管内視鏡検査によって得られた新しい情報をここで詳しく解説します。

冠動脈造影の限界と血管内視鏡検査の有用性

冠動脈造影から冠動脈の狭窄度を測定したり、冠動脈解離や血栓の存在をある程度診断することができます。
しかし、血栓の検出においては、冠動脈造影検査の感度は低く、血管内視鏡検査が非常に有用です。
急性心筋梗塞に対する冠動脈形成術後に造影上良好な結果が得られても、血管内視鏡で観察すると多量の血栓を認めることがあります。
また、黄色プラークの存在を冠動脈造影から診断することは不可能であり、急性冠症候群の責任病変である黄色プラークを診断するために血管内視鏡が有用です。

急性冠症候群の診断における血管内視鏡検査の有用性

冠動脈疾患のなかで、血管内腔が狭小化して血流が制限されることによって生じる安定型労作性狭心症の診断においては冠動脈造影は非常に有用です。しかし、プラークが破綻して血栓が形成されることによって生じる急性冠症候群の診断にとって冠動脈造影だけでは不十分です。
なぜならば、急性冠症候群の責任病変の狭窄あるいは閉塞は、プラークの破綻による内容物の内腔への突出が原因となって突然生じることが多く、血栓によって狭窄度が大きく左右されます。
そのために、発症前の病変を冠動脈造影によって診断することは不可能であり、発症後においても血栓の消退によって狭窄度が著しく減弱して責任病変の同定が困難な場合があります。
このような急性冠症候群の責任病変は、血管内視鏡を用いれば、白色優位の血栓を伴った表面不整な黄色プラークとして診断できます。
黄色プラークが破綻して血栓が形成されても、必ずしも急性冠症候群を発症するわけではありません。
プラークの破綻に伴って血栓が形成された結果1)冠動脈が完全に閉塞されれば急性心筋梗塞を、2)亜閉塞に終われば不安定狭心症を発症し、3)高度狭窄に 至らなければ無症候性に経過して血栓の器質化に伴って狭窄が進行します。
しかし、急性冠症候群の責任病変となり得る黄色プラークは、血管内視鏡を用いることによって容易に検出できます。
破綻したプラークによって急性冠症候群を発症するか否かは、プラーク内容物の血栓源性、プラーク破綻の程度、血液学的易凝固性、冠動脈狭窄度などさまざまな要因によって決定されるため、容易には予測できませんが、黄色プラークの易破綻性を色調などの血管内視鏡所見から評価しようとする試みも進められていま す。

急性心筋梗塞および不安定狭 心症の血管内視鏡像

急性心筋梗塞の責任病変を再潅流療法前に血管内視鏡で観察すると、赤色血栓が冠動脈を閉塞している像がみられます。
しかし、血栓溶解療法によって再潅流させた直後に観察すると、破綻した表面不整な黄色プラークとその上に付着する多量の白色血栓がみられ、白色血栓は溶解 断片化して末梢へ流れていきます。バルーンによる冠動脈形成術によって再潅流させた直後に観察しても、やはり黄色プラークと白色優位の血栓像を認めます が、血栓溶解療法の場合に比べて赤色血栓が残存している傾向が大きいです。 この観察結果より次のような過程が推測されます。
まず、黄色プラークが破綻すると血小板が付着・凝集し、さらにフィブリンネットの形成によって白色血栓の形成が始まります。
白色血栓によって血管内腔が狭小化して血流のうっ滞が生じると、赤血球がフィブリンネットに捕らえられるようになり、徐々に赤色の比率の大きい混合血栓が 形成されるようになると考えられます。
すなわち、プラークの破綻後に生じる血小板の付着が急性冠症候群の発症に重要な働きをしていると考えられます。
このことは、急性冠症候群の治療法として抗凝固療法よりも抗血小板療法が有効であるという事実と一致します。
不安定狭心症の血管内視鏡像は、再潅流後の急性心筋梗塞の像と同様で、破綻した表面不整な黄色プラークと白色優位の血栓がみられます。
ただし、冠攣縮性狭心症による不安定狭心症の場合には一般に責任病変に黄色プラークを認めません。
そのため、臨床症状より不安定狭心症を疑って冠動脈造影検査を施行しても軽度~中等度の冠動脈狭窄しか認めない場合に、血管内視鏡検査をすることによって 急性冠症候群か否かを診断することができます。

黄色プラークの形成から見た動脈硬化の進行

血管内視鏡所見をどう評価するかについてはまだまだ試行段階ですが、黄色プラークの色調をグレード0(白色)、1(淡黄色)、2(黄色)、3(濃黄色) の4段階に分類し、主要冠動脈3枝それぞれについて1枝あたりの黄色プラークの個数やプラークの最高グレードあるいはグレードの総和を求めることによって、黄色プラークの形成過程から見た動脈硬化の進行度を評価できると考えられます。
この方法によって動脈硬化の進行度を評価すると、高脂血症のある人では高脂血症のない人に比して動脈硬化が進行していること、心筋梗塞の既往がある人ではない人に比して動脈硬化が進行していることなどがわかります。
さらに、心筋梗塞を発症した人では、梗塞責任血管と非梗塞責任血管で動脈硬化の進行度に差がないことが示されており、動脈硬化が冠動脈主要3枝において均等に進行することが明らかとなっています。
すなわち、一旦心筋梗塞を発症した人では、近い将来に再度心筋梗塞を発症する危険性が高いと考えられ、梗塞責任病変に対する治療のみならず危険因子に対す る治療など全身的再発予防対策が必要と考えられます。
図は心筋梗塞を発症した人の冠動脈内の黄色プラークの分布を示していますが、今回の梗塞責任病変以外にも多数の黄色プラークが冠動脈全体に広く分布して います。

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