頻拍とは1分間の脈拍数が100以上となっている状態で、運動したり、興奮したりしているときに100以上となるのは正常です。「発作性頻拍症」とは突然、不自然に脈拍数が速くなる不整脈の一種で、その原因が心室にあれば発作性心室頻拍、上流の心房にあれば、発作性上室性頻拍と一般に呼ばれます。症状を伴っていることがほとんどで、中には命に関わることもあるので、正確に診断し、何らかの治療・対策を講じる必要があります。薬の治療のほか、カテーテルによる「経皮的カテーテル心筋焼灼術」や「植え込み型除細動器」を適切にくみ合わせて治療を行っています。
心房粗動は1つの異常な電気的興奮が心房内を大きく旋回するもので、多くの場合右心房内を回っています。繰り返し起こっているものや心臓の働きを障害している場合には、経皮的カテーテル心筋焼灼術の良い適応となります。
心房細動は最も頻繁に見られる不整脈で心房が痙攣したようになり、全く乱れた脈となります。心房細動には大きな2つの問題点があります。1つは心房の中に血栓という「血のかたまり」ができやすいことで、脳梗塞の主要な原因一つとなっています。これに対してはワーファリンという血液凝固能を押さえる薬を使って血栓の予防を行います。適切な量のワーファリンが内服できていれば、脳梗塞が約3分の1に減らすことができます。2つ目の問題は脈の乱れに関するもので、これを非常に不快に感じることがある場合や、適切な量の血液が心臓から拍出されないために心不全となったり失神を起こしたりすることがあります。生活の改善、薬物治療、カテーテル治療、ペースメーカなどの機械的治療を適切に組み合わせる必要がある最も知識と経験を必要とする不整脈の一つです。
心臓の中には微小な電気が流れており、それが心臓を収縮するタイミングを決めています。電気の流れる電線にあたる部分に障害がある場合、心臓が収縮する回数(通常1分間に60-80回程度心臓は収縮して血液を送り出しています)が少なくなってしまいます。大きくわけて洞結節(電気の流れの起点となる箇所)と房室結節(心房と心室の継ぎ目となる箇所)の異常があり、それぞれ洞機能不全症候群、房室ブロックといいます。脈拍数が極端に少なくなると、脳への血流が減ってしまうために、めまい・ふらつきが出現し、ひどい場合には意識消失してしまいます。このような場合、薬物療法では効果が限定的であるため、治療にペースメーカが必要不可欠です。ペースメーカは臨床応用されてから60年経過しており、最も確立した人工臓器の一つでありますが、現在当院においては2種類のペースメーカを選択することが可能で、疾患や患者さんの状態に応じて使い分けております。
ペースメーカの電池本体と長細い電極(リード)から構成されています。通常、本体を左右どちらかの鎖骨の下側の皮膚の下に植え込み、リードは鎖骨の近くの太い血管から心臓に挿入し、先端部を心臓に固定します。本体から電気信号がでると、リードを介して心臓に電気が伝わるしくみとなっています。電池の寿命は7-8年程度で、ペースメーカの電池消耗が生じると、電池本体を交換する必要があります。また、リード線の不具合や断線が生じた場合は、さらにリードを追加する、もしくはリードの植え込み年数が短ければ撤去して、再挿入を行います。
(画像提供:Medtronic社より)
(画像提供:Medtronic社より)
鼠蹊部からカテーテルを用いて右心室に留置します。リードレスペースメーカにはリード線は存在せず、デバイスと一体化しています。重さ1.75ℊ、1㏄まで小型軽量化されています。電池寿命は最長で12年(通常7-8年程度)、MRI撮像も条件付きで可能です。
従来のペースメーカと違い、皮膚切開を必要としないため、感染のリスクが軽減するといわれています。電池寿命が減った際は、リードレスペースメーカは被膜に覆われているため、新たにもう1つ挿入する必要があります(現在のシステムでは最大3つまでは留置可能であるといわれております)。
(画像提供:Medtronic社より)
ただし、リードレスペースメーカは、ペースメーカとしての機能が通常のペースメーカと比べて少ないため、心房細動症例、高齢、認知機能やADLが低下している場合、鎖骨下にリード線を留置しづらい透析患者さんなどを対象に使用しています。本邦では2017年より使用可能となりましたが、当院はすでに100人以上の患者さんにリードレスペースメーカの植え込みを行っております(2021年8月現在)。
ペースメーカは留置したらそれで終わりではありません。ペースメーカの傷口に問題はないのか、デバイスが適切に作動しているか、留置したリード線がいたんでいないか、ペースメーカの電池寿命が保たれているかを年1-2回程度の割合でチェックいたします。ペースメーカ外来は火曜日午後、金曜日午後に設けております。
また、機種によっては、以下に示す遠隔モニタリングシステム(図)を用いて自宅でもペースメーカをチェックすることが可能で、以前と比べ何らかのペースメーカに不具合が生じた際に早期に発見することが可能となっています。(ただし、患者さん自身の体の不調などはわかりません。)
また、ペースメーカの機種によっては、リコールが生じ、必要に応じて早期に電池交換を行う必要があることもご留意ください。
(画像提供:Medtronic社より)
徐脈性不整脈(洞不全症候群・房室ブロック)に対するペースメーカは安全かつ確実な治療法としてすでに確立しております。致死性不整脈に対する突然死予防に植込型除細動器(ICD)の植込みも広く普及し、また同期不全のある心不全に対しての心臓再同期療法(CRT)やICDとCRT両者の機能を兼ね備えたCRT-D植込みも増加傾向にあります。しかしながら、デバイス治療の発展と普及に伴い、デバイス感染の頻度も増加傾向にあります。その要因の一つとして高齢化に伴い、創部が菲薄化(ひはくか)してしまう現状もあるかもしれません。
日本循環器学会ガイドライン(不整脈非薬物治療ガイドライン2018年改訂版)において、デバイス感染に対する治療は、リード感染、菌血症のみならず、創部感染であってもデバイス全システム抜去(デバイス本体、リード)が「クラスⅠ適応」に推奨されています。
しかしながら、長期間心腔内もしくは血管内に留置されたリードは、血管壁やリード間どうしで癒着し単純な牽引操作では抜去困難となります。過度の牽引により血管損傷や心突孔といった死に直結する重篤な合併症と引き起こす危険もあります。単純牽引でのリード抜去が困難な場合、以前は開心術を必要とすることもありましたが、現在では開心術を必要としないエキシマレーザーシステムを用いた治療が保険償還され、2020年より当院においても導入いたしました。石灰化病変に対しては、パワードーシースやメカニカルシースを併用する場合や、難渋例にはスネアを用いることもあります。また、現在ではデバイス感染症例のみならず、リード断線症例においても、遺残リードを残さず断線したリードを抜去し新たにリードを追加することが可能となりました。
医療関係者の方へ
〈リード抜去法に関する紹介に関して〉
当院において、リード抜去法に関しては原則全身麻酔下ハイブリッド手術室にて施行しております。そのため患者さんまたそのご家族に対して、術前に麻酔科・口腔外科受診するようご説明しています。
全身麻酔のリスク評価のため、通常の心電図、胸部レントゲン、採血の検査に加えて、
速やかにリード抜去術を行うため、当科に入院もしくは転院までに可能であれば紹介元の施設で施行していただきたく思います。
また、リード抜去術後に関する再植込みに関しては、紹介元の希望にできるだけ沿う形で対応しております。リード抜去術適応の可否に悩む症例に関してもお気軽にご相談ください。
リード抜去術に関する問い合わせ
担当:南口 仁 / 樋口 義治
TEL:06-6771-6051(代表) FAX:06-6775-2838(代表)
弁膜症・心筋症・心筋梗塞など外見上分かる心臓の異常を伴っていない心室頻拍を「特発性心室頻拍」と呼びます。これは90%程度の確率で経皮的カテーテル心筋焼灼術によって根治を得ることができます。そのため薬の治療を試みる前に、経皮的カテーテル心筋焼灼術を行うこともしばしばあります。一方、弁膜症・心筋症・心筋梗塞などに伴う心室頻拍で、血圧が下がったり、脈拍数が非常に速いものや心臓のポンプ機能が著しく悪い場合などには、心臓突然死の可能性があるため、植え込み型除細動器を植え込んだほうが安全といえます。
発作性心房細動、持続性心房細動の患者様に対してリズムコントロール目的に肺静脈隔離術を施行しています。発作性心房細動に対しては基本的にはクライオバルーンアブレーション(冷凍アブレーション)による肺静脈隔離術を施行しています。それ以外の症例では高周波カテーテルによる心筋焼灼術を施行しております。当院での治療成績ですが、発作性心房細動では88%で抗不整脈薬投与なしに洞調律を維持できております。持続性心房細動では78%が抗不整脈薬投与なしで、抗不整脈薬併用も含めれば85%で洞調律を維持できています。
心房細動以外の不整脈(発作性上室性頻拍、心室期外収縮など)でも積極的にアブレーション治療を行っております。
動悸でお困りの患者様がいらっしゃいましたら診断から治療までトータルケアさせていただきます。
バルーンを肺静脈に閉塞させ、-60℃で冷却することで心筋を冷凍壊死させ肺静脈から左心房への伝導を遮断します。所要時間は2時間弱です。
カテーテル先端から高周波を流すことにより熱を発生させ、心筋を焼灼します。3次元マッピングシステムを使用することにより手技中の被爆を軽減し、さらにカテーテル先端の心筋への接触状況も感知でき、安全に治療を行えます。