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当科では、虚血性心疾患、大動脈疾患、弁膜症, 先天性心疾患など外科治療の対象となるすべての心大血管疾患の外科治療を行っています。僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術(人工弁を使用せず自分の弁を修復する手術)や、合併する心房細動に対する高周波アブレーション使用によるメイズ手術および虚血性心疾患に対する心拍動下手術(OPCAB)など最先端の技術・手術手技を導入し低侵襲化を図っています。また、腹部大動脈瘤手術では患者様とよく相談し開腹術、ステントグラフト治療の選択を行います。このように高齢者や合併症を有するハイリスクの症例でも安全かつ各個人にあった治療戦略を考えて術式を決めていく方針です。さらに外来診療ではホームドクターとの連携を強化し専門診療にあたります。病気・手術に対する疑問や不安に対して十分な時間をとり丁寧な説明を心がけています。
従来心臓手術は人工心肺を用いる関係上、胸を大きく切開(胸骨正中切開:約20cm)して手術を行うのが一般的でした。一方一般外科(消化器外科)領域では1990年頃から胆石に対する胆嚢摘出術を手始めにお腹を大きく切らずに、小さな穴から内視鏡カメラや特殊な器具をお腹の中に挿入して手術をする腹腔鏡(内視鏡下)手術が始まり、今ではお腹をなるべく大きく切らずに手術をするのが一般的になり、患者さんの手術による傷の痛みの軽減と早期退院、社会復帰に貢献してきました。心臓手術でも心臓自体に対する手術の傷はせいぜい数センチまでですので、胸の傷を小さくして手術を行う低侵襲小切開心臓手術が1997 年頃より始まり、簡単な弁膜症手術や心房中隔欠損孔閉鎖術などは従来の半分の約10cm程度の傷で手術が可能になっております。当初は患者さんの早期退院と社会復帰を目指して始まりましたが、痛みが少ない、早く退院できるというメリットよりも美容上の手術創が小さいといったメリットの方が大きく、現在では女性、特に若い女性の患者さんで適応があれば限定して行われているのが現状です。
腹部大動脈は大動脈瘤の中で最も発生頻度が高い領域であり、人工血管置換術が確立されています。しかし心臓、腎臓、肺など他の臓器の病気を合併していて、手術および全身麻酔のリスクが高い患者様に対してはより侵襲の少ない治療法が望まれていました。
そのようなリスクの多い患者さんに対しては、日本でも広く普及し始めた血管内治療(ステントグラフト内挿術)を行うことで手術による負担を著しく低減することができるようになりました。
この治療法は脚の付け根に5cm程度の切開を加え、足の血管からカテーテルといわれる管を挿入して大動脈病変部に人工血管を留置する手技を用いるものです。この方法では、大動脈瘤は切除されず残っているわけですが、瘤はステントグラフトにより蓋をされることになり、瘤内の血流が無くなって次第に小さくなる傾向がみられます。また、たとえ瘤が縮小しなくても、拡大を防止できれば破裂の危険性がなくなります。
当院でも腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術に関して、今年施設認定基準を獲得し、大阪大学心臓血管外科との連携の下で治療にあたっています。
注)一方、血管内治療が行えない動脈瘤の形、動脈瘤の性状(石灰化や壁の血栓など)、また血管内が大変細くて人工血管を血管内から挿入できない人もいます。

従来心臓弁膜症などの合併症として見られた心房細動は、治らない不整脈として放置され、主に薬剤による頻脈のレートコントロールと心源性の血栓塞栓症予防のための抗血栓薬療法(ワーファリンや抗血小板薬投与)が治療の中心でした。最近では巨人軍の長島茂雄終身名誉監督がこの心房細動による血栓塞栓症で脳梗塞になり、心房細動もずいぶん注目されるようになって来ました。アメリカでは1990年代前半からこの心房細動に対する外科治療が開発され、セントルイスのワシントン大学医学部のCox教授が開発したメイズ手術が有名です。これは心房細動の心房筋を切開して再縫合することで心臓の刺激伝導の興奮波の通り道を交通整理することで、脈を再び規則正しい洞調律に戻す手術です。しかし切開線が多く、結構出血が多くて手術時間がかかるので当初あまり普及しませんでした。ところが最近では高周波電気焼勺や冷凍凝固による心房筋の異常な興奮電気回路の遮断が出来るようになり、手術術時間短縮と出血量の軽減が図られるようになり、一気に普及してきました。アメリカでは心房細動のみの症例にも積極的にこのメイズ手術が適応されているようですが、日本では心臓弁膜症に付随する心房細動に対し,弁膜症手術に付随する形で付加的な手術として多く行なわれており、保険適用も受けています。当院でも弁膜症や冠動脈疾患の患者さんで心房細動の合併しておられる例では積極的にこの手術を行なっており、洞調律への復帰率は約80%前後と良好です。
従来狭心症や心筋梗塞例に対する冠動脈バイパス術は人工心肺を用いて、心臓を静止させた状態で心臓の冠動脈とバイパス血管の吻合が行なわれてきました。これは心臓側の冠動脈の太さが直径1-2ミリと細く、吻合するバイパス血管も2-3ミリと細いため、心臓を止めて静止状態で血管吻合を行なうほうがより正確な吻合が行なえると考えられてきたためです。
しかし冠動脈バイパス手術は心臓の表面に血管をつなぐだけで、心臓の中を開いて修理したり覗いたりする必要は無いわけで、心臓を動かしたままで血管吻合する場所だけを少し押さえつけて大人なしくさせれば血管吻合は可能です。1990年代の後半からイタリアの医師らが中心になって、人工心肺を使わずに心臓を止めずに動かしたまま冠動脈にバイパス血管をつなぐオフポンプ冠動脈バイパス術始まり、次第に脚光を浴びるように、なってきました。このオフポンプ冠動脈バイパス術の良いところは、人工心肺を使わないことによるさまざまなメリットがあることです。まず第一に人工心肺を使わないことによる経済的なメリットです。人工心肺の回路や人工肺がいらないことで、お金がかかりません。それと人工心肺使用によるさまざまな合併症が避けられたり、減らせます。たとえば人工心肺を使用すると輸血が必要になったり、電解質の入った輸液で血液を薄めて人工心肺の回路を充填するために、術後余分な水分で肺が水っぽくなって呼吸機能が低下したりしてもともと低肺機能の患者さんでは呼吸不全になったり、その余分な水分を術後に腎臓が頑張って体外に尿として排出しないといけないので腎機能に負担がかかってもともと腎機能の悪い患者さんでは腎不全を来たしたりと、色々な不都合が起こってきます。また脳血管障害のもともとある患者さんでは、脳梗塞や脳出血の危険が、人工心肺の使用で若干高くなります。オフポンプ冠動脈バイパス術では、もともと脳血管障害のある患者さんや、肺機能、腎機能に問題がある患者さんで、人工心肺を使用することで脳や肺、腎臓に合併症を起こしそうな患者さんでも比較的安全にこれらの合併症を来たすことなく冠動脈バイパスの手術が可能になります。その結果輸血も少なく済み、体の炎症反応も少なく済むので、術後の回復が早くなります。
それではオフポンプバイパス手術はどんな患者さんにも施行可能で、いいことばかりなのかといえば、そうでもありません。血管の極端に細い人や心臓の弁が悪く、バイパス手術と同時に弁を修理したり心臓の壁を縫縮する必要のある患者さんではやはり、人工心肺が必要になります。また心臓を動かして血管を吻合するので、心臓の前面の血管は比較的簡単に吻合できますが、心臓後麺の血管吻合は心臓を脱転して吻合しないといけないので技術的には難しく、また心臓の脱転で血圧が低下したりと血行動態が不安定になることもあります。心臓が著しく拡大している患者さんも脱転が難しいです。いずれにしても心臓の後面の血管へのバイパスは少し質が落ちる可能性があります。日本では患者さんの体に優しい手術をしてこのオフポンプ冠動脈バイパス術はいま冠動脈バイパス術全体の6割を超える勢いです。ちなみにアメリカではいまだに2割前後しか普及していません。当院では脳血管障害があって脳梗塞のリスクの高い例や、肺機能、腎機能に問題のある患者さんでは積極的にこのオフポンプ冠動脈バイパス術を積極的に行なっておりますが、それ以外の患者さんで、人工心肺使用に問題がないと考えられる例では人工心肺を使って安定した視野で十分な視野を確保して良質な吻合を十分な本数施行することでより完成度の高いバイパス手術を心がけております。
| 臓器 | 疾患 | 適応 | 手術術式 | 特色/手技の工夫 |
|---|---|---|---|---|
| 心臓 | 心房中隔欠損症 | 肺高血圧・心房細動非合併例 | 完全内視鏡下手術 | 女性に有効 |
| 右第四肋間開胸 | ||||
| 胸骨下半縮小切開 | 男女とも胸骨上部の手術創が避けられる | |||
| 心室中隔欠損症 | 肺動脈弁下型・膜様部欠損型 | |||
| 動脈管開存症 | ||||
| 肺動脈弁狭窄症 | ||||
| 僧帽弁疾患 | 単弁初回手術で肺高血圧・心房細動非合併例 | 右第四肋間開胸 | 女性に有効 | |
| 単弁初回手術で心房細動非合併例 | 胸骨下半縮小切開 | 男女とも胸骨上部の手術創が避けられる | ||
| 大動脈弁疾患 | 単弁初回手術 | |||
| 冠動脈疾患 |
低心肺機能・脳梗塞 ・腎不全など人工心肺使用の合併症が懸念される症例 |
人工心肺非使用下冠動脈バイパス手術(オフポンプバイパス手術) | ・人工心肺使用による合併症が避けられる ・早期離床・回復がはかれる | |
| 大動脈瘤 | 胸部下行大動脈瘤 | 経カテーテル法による |
開胸・開腹が不要 早期離床・回復がはかれる |
|
| 腹部大動脈瘤 | ステントグラフト挿入術 | 開腹が不要 早期離床・回復がはかれる |
