がん診療センター

遺伝相談外来

「遺伝相談外来」を開設しました

乳腺・内分泌外科
部長 吉留 克英

「なんでがんになったのでしょう?」
患者さんからよく質問されます。がんは特別な病気でしょうか?2019年の国立がん研究センター「がん統計」によると、日本人の2人に1人は一生のうちに何らかのがんにかかるとされ、実はすべての人にとって身近な病気です。さまざまな要因によって発症していると考えられていますが、科学的に根拠のある原因としては、喫煙、過度の飲酒、感染(肝炎、パピローマウイルス、ピロリなど)、肥満などがあげられますが、まだまだ未解決の部分も多く含まれています。
「うちはがん家系だからですか?」
がんは正常な細胞の遺伝子に2個から10個程度の「傷」(遺伝子の変化)がつくことにより発生します。「傷」は一度につくわけではなく、様々な原因で年月をかけて徐々に積み重なります。「傷」がついてもあまり影響のない部分もあれば、非常に重要な部分(ホットスポットといいます)もあります。ホットスポットの「傷」は必ずしも病気になるわけではありませんが、種類によりがんになりやすい臓器がわかっていたり、親から子へと遺伝することがあります。また、ひとつだけでなく複数の臓器のがんの原因となる場合もあります。同じ「傷」が原因で家系内に複数の発症をみるとき「遺伝性腫瘍」と呼ばれます。「うちの家系にはがんの人がたくさんいるなぁ」と思われる場合、すべてではないですが遺伝子変化を調べる検査が保険適応となりました。

遺伝相談外来について

遺伝相談外来の目的は、「ご自身および血縁のあるご家族の健康を守る」ことです。
今後も医学の発達により、ますます病気の原因が解明されていくでしょう。その原因の中に「遺伝」が関与している場合、関連する遺伝子が明らかになれば、将来ご自身がかかる可能性のある病気や病気になり始める年齢がわかります。定期的にかつ重点的に人間ドックなどで検診を受けることで、早期発見ができます。病気になる前に予防的に切除することも条件付きですが保険適応も始まりました。

乳がん・卵巣がんの患者さん

乳がんは女性の最もかかりやすいがんで、年間約10万人発症します。また、卵巣がんは年間約1万人発症します。乳がん患者さんのうち約5%、卵巣がん患者さんの約10%はBRCA1/2と呼ばれる遺伝子の変化が原因で発症することがわかってきました。この変化は親から子へ50%の確率で遺伝し、2人に1人以上の方が乳がんを、3割以上の方が卵巣がんを発症します。アンジェリーナ・ジョリーが予防的乳房切除を行ったことで急速に知識が広がりました。また、2020年4月にはこの検査が条件付きですが保険適応になりました。

■保険での検査対象となる患者さん

・45歳以下で乳がんと診断された方
・60歳以下でトリプルネガティブ乳がんと診断された方
・両方の乳房または同側で複数の乳がんと診断された方
・第3度近親者(大おばさん、いとこさんなど)までに乳がんのご家族がある方
・男性で乳がんと診断された方
・卵巣がん、卵管がんおよび腹膜がんの診断を受けたすべての患者さん

診察日 乳がん:月曜日、卵巣がん:木曜日(完全予約制)
受診当日の流れ
  • 外来担当医、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを行います。(約60分ほどです)
  • 血縁のあるご家族について家系図を書きながら病歴をお聞きします。
  • 遺伝性乳がん卵巣がん症候群について説明を聞いていただきます。
  • 乳がん看護認定看護師による面談を行います。(乳がん患者さんのみ必要時)
検査方法 約7mlの採血です。
費用 3割負担の場合、検査日に約66,000円(3割負担の場合)です。
説明を聞かれて、現時点での検査をご希望しなくてもかまいません。検査をご希望されない場合、費用は約1,000円です。
結果説明日と費用:2~3週間後に結果が出ます。上記遺伝カウンセリング・相談費用として約3,000円(3割負担の場合)です。

乳がん・卵巣がんの患者さんのご家族

乳がんの患者さんでも、上記の条件に当てはまらない場合には遺伝子の検査・遺伝カウンセリングは自己負担となります。また、ご自身は乳がんも卵巣がんもかかっていないけれど、近い親族の方に乳がんの患者さんがいらっしゃる場合も自費となります。
例えば「亡くなったおばあさんが乳がんだった。現在乳がんの親戚はいない」、「母が70歳で乳がんになった」時など、ご自身が心配で相談をご希望の場合です。
また、血縁のあるご家族が乳がんになり、BRCA1/2遺伝子検査で変化がわかっている場合でもご相談できます。この場合の検査費用は下記「陽性患者の家族の遺伝子検査」に当てはまります。

受診日 木曜日午後で完全予約制です。
受診当日の流れ
  • 臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを担当します。
  • まず血縁のあるご家族について家系図を書きながら病歴をお聞きします。
  • 遺伝性乳がん卵巣がん症候群について説明を聞いていただきます。(約60分ほどです)ご家族の同伴などで複数回の受診も可能です。
検査方法 約7mlの採血です。
費用 初回 :60 分 10,000円、結果説明・2回目以降:30分程度 5,000円/回

・BRCA遺伝子検査を行うとき  23万円(迅速29万円)
・陽性患者の家族の遺伝子検査  5万円 
※金額はすべて税抜き 
結果説明日:2~3週間後に結果が出ます。

前立腺がん(男性)の患者さんとご家族

BRCA1/2遺伝子の変化は、父または母から子供へ2分の1の確率で遺伝します。男性では前立腺癌の罹患リスクが高く、特にBRCA2遺伝子の変化を持つ男性では一般の2~6倍の罹患リスクがあるとされます。またBRCA遺伝子の変化のある方に発症する前立腺癌は悪性度が高い傾向がありますがPARP阻害剤と呼ばれる新薬(リムパーザR)が有効であることが報告されています。

BRCA1/2遺伝子検査が保険適応となる場合:遠隔転移に対して男性ホルモンを抑える治療を行っているにもかかわらず、進行してしまった前立腺がんの患者さん。

泌尿器科担当Drから説明がありますが、検査には2種類あります。
① 腫瘍組織を検体とするFoundationOne® CDxがんゲノムプロファイル
② BRACAnalysis™ 診断システム
当院では②を行います。①はがんゲノム医療提供施設で行います。
詳細は「前立腺がん」のページをご参照ください。

BRCA1/2遺伝子検査が自費診療となる場合:ガイドラインでは、以下の条件のいずれかを満たす前立腺がんの患者さんに関して推奨されています。

・血縁者にBRCA1またはBRCA2遺伝子の病的変化が確認されている。
・血縁者の中で2名以上に乳癌・卵巣癌・膵癌・悪性黒色腫等の発がんが確認されている。
・遠隔転移またはリンパ節転移を有する転移性前立腺癌(男性ホルモンを抑える治療が有効であるときには自費です)

受診日 木曜日午後で完全予約制です。
受診当日の流れ
  • 臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを担当します。
  • まず血縁のあるご家族について家系図を書きながら病歴をお聞きします。
  • BRCA1/2遺伝子について説明を聞いていただきます。(約60分ほどです)ご家族の同伴などで複数回の受診も可能です。
検査方法 約7mlの採血です。
費用 初回 :60分 10,000円、2回目以降(必要時):30分程度 5,000円/回
 ・BRCA遺伝子検査を行うとき  23万円(迅速29万円)
 ・陽性患者の家族の遺伝子検査  5万円   ※金額はすべて税抜き 
結果説明日:2~3週間後に結果が出ます。

◆膵臓がん(男女とも)の患者さんとご家族

BRCA1あるいはBRCA2遺伝子の変化を持つ方は,欧米のデータでは,70歳までの膵癌の累積罹患リスクは,1.4~1.5%(女性),2.1~4.1%(男性)とされます。また,一般集団と比べて2.4~6倍の発症リスクの増加があると報告されています。BRCA遺伝子の変化のある方でプラチナ系抗癌剤の効果があった患者さんに、PARP阻害剤と呼ばれる新薬(リムパーザR)が安定した病状を維持することに有効であることが報告されています。

BRCA1/2遺伝子検査が保険適応となる場合:
治癒切除不能な膵がん患者さん (一部改正 R2 保医発1228第1号)
ガイドラインでは、以下の条件のいずれかを満たす膵臓がんの患者さんに関して推奨されています。(保険適応か自費診療となるかはご相談ください)

・血縁者にBRCA1またはBRCA2の病的バリアント保持者が確認されている。
・血縁者の中で2名以上にHBOC関連(乳癌・卵巣癌・前立腺癌・膵癌・悪性黒色腫等)の発癌が確認されている。
・遠隔転移を有する,または術後再発

受診日 木曜日午後で完全予約制です。
受診当日の流れ
  • 臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを担当します。
  • まず血縁のあるご家族について家系図を書きながら病歴をお聞きします。
  • BRCA1/2遺伝子について説明を聞いていただきます。(約60分ほどです)ご家族の同伴などで複数回の受診も可能です。
検査方法 約7mlの採血です。
費用 初回 :60分 10,000円、2回目以降(必要時):30分程度 5,000円/回
 ・BRCA遺伝子検査を行うとき   23万円(迅速29万円)
 ・陽性患者の家族の遺伝子検査  5万円
※金額はすべて税抜き 
結果説明日:2~3週間後に結果が出ます。

◆その他のがん(男女とも)の患者さんとご家族

そのほかのがんでも、遺伝子の変化が発症の原因であることが次第に明らかにされてきています。また、同じ種類のがんだけでなく複数のがんが同じ原因の場合もあります。しかしながら保険適応となった検査はまだごく一部に過ぎません。ゲノム医療の進歩は著しいです。当院では迅速に情報発信したいとかんがえております。「がん家系かな?」と疑問に思われたらお気軽にご相談ください。

◆遺伝相談外来担当医の専門医療者資格

■乳腺内分泌外科(乳腺外科) 部長 吉留 克英(よしどめ かつひで)
日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
日本乳癌学会乳腺専門医・指導医・評議員
日本乳房オンコプラステックサージャリー学会責任医師
日本乳がん検診精度管理中央機構検診マンモグラフィ読影認定医
日本乳がん検診学会
日本がん治療学会