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診療方針
1.動脈瘤に対する低侵襲・小開頭手術
脳動脈瘤はひとたび破裂すればクモ膜下出血となり、生命にかかわる事態となってしまいますので、当科では脳ドックなどで偶然見つかった脳動脈瘤に対して積極的に治療を行っています。長期的な治療効果を考え、開頭クリッピング術を優先していますが、動脈瘤の部位や、患者さまの年齢などによっては血管内治療によるコイル塞栓術を選択することもあります。
脳動脈瘤に対する開頭手術は、当科では患者さまの負担を軽減し、手術後の合併症を軽減できるよう小開頭手術(低侵襲的脳動脈瘤クリッピング術)を行っています。以下に、その小開頭手術についてお示しいたしますので、これから当科を受診しようと考えていらっしゃる患者さまの参考になれば幸いです。
左図に示しますように従来の開頭手術では皮膚切開、開頭範囲ともに大きなものでした。除毛(髪の毛を切る)範囲も広く手術の傷も大きくなるため、美容上に問題が出る場合もありました。
左図に示しますように小開頭手術では、皮膚切開、開頭範囲ともに、従来の1/3程度になり、手術時間の短縮、手術合併症の軽減にも繋がっております。
近年の顕微鏡下手術の進歩、手術技術の向上により、このような小開頭での手術が可能となりました。また、皮膚切開も小さなため、部分除毛(皮膚切開に必要な狭い範囲のみ髪の毛を切ります)での手術が可能となり、美容上も優れています。
◎脳ドックで発見された前交通動脈瘤の女性(54才)の実例です。
- 動脈瘤は直径5mmで左方向に向いています。
- 左開頭術を行います。
- 術後レントゲンと3D-CT血管撮影
私たちは、この技術を脳腫瘍手術、機能的脳神経外科手術(顔面痙攣、三叉神経痛などに対する手術)にも応用しております。
2.脳動脈瘤に対する血管内コイル塞栓術
脳動脈瘤の部位や患者さまの年齢、合併症の程度によっては血管内治療によるコイル塞栓術の方がより安全な場合があります。頭蓋骨の底の骨を大きく削除しないとクリッピングが行えなかったり、あまりにも術野が深くなるとき、患者さまの年齢が高かったり、循環器・呼吸器に重篤な疾患を合併している場合などです。
近年脳ドックの普及などによって、未破裂脳動脈瘤が発見される機会が急増しています。治療法には開頭手術で動脈瘤を直接見ながらクリップをかける「クリッピング術」と、カテーテルを使う脳血管内治療によって、動脈瘤の中に細くて柔らかいプラチナ製のコイルを留置して、こぶの中を詰める「コイル塞栓術」の2つの方法があります。
クリッピング術
脳動脈瘤コイル塞栓術
ステントを併用したコイル塞栓術
フローダイバーターを用いた脳動脈瘤治療
5.脳腫瘍
脳腫瘍の手術ではより安全に腫瘍を摘出するため、術前に脳血管撮影というカテーテルを用いた検査を行い腫瘍の栄養血管の状態や腫瘍と周囲の正常な血管との位置関係を綿密に調べます。もし血流の豊富な腫瘍であると判明すれば腫瘍の栄養血管の塞栓術を行い、手術中の出血が最小限となるように処置します。また、腫瘍が運動神経や言語の領域などの重要な脳の部位に近接している時にはMRIにてトラクトグラフィーを行い腫瘍と神経の走行路との関係を調べます。実際の手術の時には、必要に応じて各種の脳神経モニタリングを行い、ナビゲーションシステムを駆使して腫瘍を摘出します。
脳腫瘍の手術では従来、一般的に大きな開頭を行っていましたが、当科では脳腫瘍もなるべく小さな開頭にて行うようにしています。もちろん腫瘍の性状や部位によっては大きな開頭が必要なこともあります。不必要に大きな開頭は行わずに外を小さく、中を大きくというコンセプトを基本としています。
MRI画像とのフュージョン(画像処理)
髄膜腫に対する栄養血管塞栓術&
髄膜腫は脳を覆っている膜から発生するほとんどが良性の腫瘍です。良性とはいえ腫瘍なので徐々に大きくなるので、手術による摘出を行います。外科的摘出術の前に、血管内治療により腫瘍への血流を減らし、手術の安全性と成功率を高めます。
硬膜動静脈瘻(dAVF)に対する術前診査
硬膜の動脈と静脈が、毛細血管を介さずに直接つながってしまった状態(瘻-ろう若しくは シャント)を、硬膜動静脈瘻(dAVF)と言います。静脈の圧が下がり脳へ血液が逆流しうっ血して腫れあがるなど、脳梗塞や脳出血をきたすこともあります。
微小血管減圧術(MVD)に対する画像処理
脳の動脈が脳神経(顔面神経や三叉神経、舌咽神経)を圧迫することで、けいれんや痛みをきたす場合、圧迫している動脈を神経から離して 減圧する手術が有効です。
6.脊椎脊髄疾患の診断と治療について
痛みやしびれ、脱力は神経の圧迫により生じることがあります。脊椎疾患には、頚椎ヘルニア、頚椎後縦靭帯骨化症、頚椎管狭窄症、腰椎ヘルニア、腰椎管狭窄症、腰椎すべり症などいろいろな種類があります。
術後は翌日から歩行することが可能となり、1週間ないし10日目には退院することができます。このように現在では脊椎脊髄の手術は極めて安全、短時間に行えるようになりました。ただし、合併症や危険性が全くないわけではなく、十分に患者さんや御家族の方に説明し、納得していただけるよう時間を惜しまず説明することを重要視しています。
一般常識として、脳や脊髄の病は治療が困難で結果も悪いと考えられがちでありますが、現在の最新医療はこの考えを変えつつあります。脳外科手術では患者さんの体にメスを入れて、脳や脊髄を触ることになりますのでそれ相当の御負担を強いる事になりますが、当科では、常にどうすれば低侵襲的に行えるかと言う事を考えながら治療させていただいています。神経症状で悩みをお持ちの方は是非当院脳神経外科でご相談ください。
7.舌咽神経痛
症状 | 典型例では、耐え難い痛み発作が片側の喉と耳に生じます |
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原因 | 頭蓋内動脈による舌咽神経への圧迫 |
治療 | 薬物治療が有用、難治例には外科手術も効果的 |
舌咽神経痛は、片側の喉の奥と耳の奥に鋭い痛みが断続的に起こる病気です。食事や水を飲みこんだりする時に、発作的に症状が強く出る事があり日常生活に支障を来すことがあります。また、症状がひどくなると不整脈を誘発して失神するケースもあります。
原因は、動脈硬化などによる動脈の変形によって、舌咽神経という神経の根本が圧迫されることによって引き起こされることが殆どです。
治療は、薬物療法が第一選択でカルバマゼピンが効果的です。効果が不十分な場合や、ふらつきなどの副作用が強い場合には、患者さまの症状に応じて他の薬を調整します。
どうしても薬の効果が得られない場合や、根治的な治療を望まれる場合には外科手術を考慮します。手術は舌咽神経を刺激している血管の圧迫を取り除く、微小血管減圧術(micro-vascular decompression:MVD)という方法です。手術療法のメリットは、完全に痛みが寛解して殆ど再発がないことですが、安全に治療が出来るか十分に検査をしてから患者さまと相談して行われます。
必要な検査は頭部MRI、CTスキャン、脳血管撮影です。
舌咽神経痛は非常に珍しいため、診断がなかなかつかないことが多いとされています。大阪警察病院脳神経外科では舌咽神経痛に対する治療を薬物治療、外科治療ともに行っています。近年は、合併症を少なくするための神経モニタリングを用いた安全な手術を行っています(参考文献1)。
参考文献1 Microvascular decompression for glossopharyngeal neuralgia using intraoperative neurophysiological monitoring: Technical case report Yasushi Motoyama, et al. Surg Neurol Int. 2016; 7(Suppl 2): S28–S35.