泌尿器科

診療方針

1)悪性腫瘍

腎がん

治療方針

治療は外科的手術が中心となります。
外科的手術の種類としては腫瘍の進行度や大きさ、腫瘍が存在する場所により
1)ロボット支援下腎部分切除術(RAPN:腫瘍径7cmまで)
2)開腹腎部分切除術
3)腹腔鏡下根治的腎摘除術
4)開腹根治的腎摘除術
のいずれかを選択します。

ほとんどの手術をロボット支援下ないしは腹腔鏡下手術で行っていますが、全身状態、腫瘍の状態によっては開腹術で対応することもあります。
ロボット支援下手術では、従来手技的に困難であるため腹腔鏡下腎摘除術(=全摘)や開腹手術が選択されていた腎門部腫瘍(図1,2)でも腎部分切除術が可能となってきました。

図1
図2

腎がんが進展し大血管に腫瘍塞栓があるような場合でも、心臓血管外科と共同で体外補助循環装置を用いた根治的全摘除術も行っています。

転移巣に対する治療としては、分子標的治療薬(ネクサバール®、スーテント®、ヴォトリエント®、インライタ®、アフィニトール®、トーリセル®、カボメティクス®、レンビマ®)、免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ®、ヤーボイ®、キイトルーダ®、バベンチオ®)、インターフェロンが当院で使用可能であり、単剤やこれらを組み合わせた薬物療法を行っています。

前立腺がん

治療方針

当院では、全ての前立腺がん症例は前立腺カンファレンスで治療方針を検討しています(前立腺がん治療センター)。前立腺カンファレンスは、泌尿器科のみならず放射線治療科、病理診断科と合同で開催し、個人の医師の意見に偏らない治療方針の決定を行っています。

1、前立腺限局がん(StageA・B)

  1. ロボット支援下前立腺全摘術(RALP*)
  2. 放射線外照射治療(IMRT)
  3. ホルモン治療(全身状態、年齢などによる)

*RALPでは、通常25度前後の頭低位で行います。緑内障などの眼圧の高い患者さんでは、頭低位角度の少ない腹膜外アプローチロボット支援下前立腺全摘術(eRALP)も行っています。がんの局在と悪性度にもよりますが積極的に勃起神経血管束温存による勃起機能の温存に努めています。さらに、2022年1月より尿道周囲の解剖学的構造を温存する術式(Hood法)も導入しています。

2、局所進行がん(StageC)

  1. ロボット支援下前立腺全摘術(病期により拡大摘除術+拡大リンパ節郭清術)
  2. ホルモン治療
  3. 放射線外照射治療(3D-CRT・IMRT)

3、進行がん(StageD)、去勢抵抗性がん

  1. ホルモン治療、新規アンドロゲン受容体標的薬
  2. 抗がん化学療法(ドセタキセル、ジェブタナ®)
  3. 骨転移巣に対するラジウム223 による内照射療法(ゾーフィゴ®)
  4. 骨病変治療薬(ランマーク®、ゾメタ®)

ホルモン治療の効果が乏しくなった場合は、新規アンドロゲン受容体標的薬(ザイティガ®、イクスタンジ®、アーリーダ®、ニュベクオ®)への変更も積極的に行っています。

前立腺がんは、適切な治療戦略を立てれば比較的予後は良好で、がんが前立腺内に限局している場合の5年生存率は90%以上、がんが前立腺の周囲まで拡がっていても転移がない場合は60〜80%、リンパ節転移のみの場合は50〜60%、骨など他臓器など遠隔転移を有する場合は30〜40%とされています。

膀胱がん

治療方針

1、筋層非浸潤性膀胱がん(Ta,T1,Tis)
膀胱内視鏡を用いて腫瘍を切除する経尿道的腫瘍切除術(TUR-Bt)を行います。
膀胱がんは腫瘍を切除しても膀胱内に再発することが多いため、再発予防目的に各種抗がん剤(ピノルビン®など)の膀胱内注入療法ならびに上皮内がんに対してはBCG膀胱内注入療法も併用しています。手術後の病理診断に基づいて、初回手術から1-2か月後に再度がんの残存がないかを検討するために経尿道的腫瘍切除術(セカンドTUR-Bt)を行います。

2、筋層浸潤性膀胱がん(StageⅡ・Ⅲ)
標準的治療は膀胱全摘除術になります。
そのため、尿路変向術(尿管皮膚ろう、回腸導管、回腸新膀胱)も必要となります。病勢に応じて、術前に抗がん剤治療を行ってから膀胱全摘除術を行うこともあります。
基本的には低侵襲なロボット支援下膀胱全摘除術(RARC)で行い、病勢にもよりますが回腸新膀胱造設術による排尿機能温存、勃起神経血管束温存による勃起機能の温存に努めています。回腸導管造設術の場合は、基本的には術後回復の早いロボット支援下体腔内尿路変向術(ICUD)で行っており、下図のように手術創は小さく、周術期合併症もほとんどありません。手術時間に関しても、従来の開腹での尿路変向術(ECUD)と比べて大きな差はありません。
回腸新膀胱造設術の場合も、ICUDを開始しています。従来のECUDに比べ時間は要するため年齢・術前合併症有無にて選択しますが、ECUDと比べ手術創は小さく、術後回復の早さが期待できます。

術後は、摘除検体の病理学的悪性度によって抗がん剤治療を追加する場合があります。

3、進行がん(StageⅣ)
全身化学療法が治療の主体になります。
標準治療であるGC療法やMVAC療法を行いますが、治療効果が不十分の場合は免疫チェックポイント阻害薬(キイトルーダ®)による治療や、転移巣局所に対する放射線療法や化学放射線療法を行います。一方で、化学療法で転移局所が増悪していない場合は免疫チェックポイント阻害薬(バベンチオ®)による治療も行います。キイトルーダ®やバベンチオ®による治療でも増悪する場合には、抗体薬物複合体(ADC)であるパドセブ®による治療も行います。

腎盂尿管がん

治療方針

1、転移がない場合
治療の基本方針は手術で切除することです。腎尿管全摘除術およびリンパ節郭清となりますが、大半の場合で侵襲の少ない腹腔鏡手術(後腹膜鏡下腎尿管全摘除術)を行っています。2022年4月よりロボット支援下腎尿管全摘除術を開始しています。術後は、摘除検体の病理学的悪性度によって抗がん剤治療を追加する場合があります。

2、早期でない場合
膀胱がんと同様のGC療法やMVAC療法などの抗がん化学療法を行い、腎尿管全摘除術およびリンパ節郭清を行っています。

3、転移のある場合
まずは、GC療法やMVAC療法などの抗がん剤治療を行います。治療効果が不十分の場合は免疫チェックポイント阻害薬(キイトルーダ®)による治療や、さらには、放射線療法や化学放射線療法も組み合わせることもあります。化学療法で転移局所が増悪していない場合は免疫チェックポイント阻害薬(バベンチオ®)による治療も行います。膀胱がんと同様に、キイトルーダ®やバベンチオ®による治療でも増悪する場合には、パドセブ®による治療も行います。

精巣腫瘍

治療方針

初診後可及的速やかに高位精巣摘除術を行います。
転移がない場合の治療の基本方針は手術で切除することです。進行している場合や転移のある場合では、BEP療法などの抗がん剤治療や放射線治療を組み合わせた集学的治療を行っています。

2)良性疾患

前立腺肥大症

各種内服治療を行っています。

2018年9月より、接触式レーザー前立腺蒸散術(CVP)を導入しています。従来の経尿道的前立腺肥大症手術と同等の効果を見込め、出血の少ない安全な治療を行うことが出来るようになりました。抗血栓薬の休薬が不要で、術後疼痛も軽減されているため、1週間程度の入院期間で、より早期の社会復帰が可能です。これまでに150例以上の経験があり、50ℊを超えるような大きな前立腺肥大症に対しても安全に施行しています。

従来のバイポーラー電極を使用した経尿道的前立腺切除術(TUR)や、さらに大きな前立腺肥大症に対しては、経尿道的ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)も積極的に行っています。

HoLEPは当院で2020年11月から導入した新しい術式で、2021年1月~9月までに31症例で手術を行っておりますが、特に合併症は認めず安全に治療を受けて頂いております。(2021年9月10日時点)
従来の手術と比較して出血量が少なく低侵襲であるため痛みが少なく入院期間が短いことが特徴です。
当院での入院期間は基本的には5日間です。
また根治的に前立腺の腺腫を取り除くことができるので、再発の可能性がほとんど無いこともメリットです。

尿路結石症

体外衝撃波結石破砕術(ESWL)、経尿道的(TUL)あるいは経皮的腎結石砕石術(PNL)を積極的に併用し、腎機能の温存を第一に考えて、確実で治療期間の短い治療戦略を立てています。さらにサンゴ状結石などの大きな結石に対しては経皮的経尿道的同時手術(ECIRS)も行っています。結石原因精査も系統的に行っており、必要な症例では食事療法も含めた生活指導も実施しています。
TULでは、全身麻酔または腰椎麻酔下に細径尿管鏡を尿道から挿入し、直接結石を観察し、ホルミウムヤグレーザーを用いて結石を破砕し、体外に結石を摘出します。従来の硬い尿管鏡(硬性尿管鏡)に加え、機能が向上した軟らかい内視鏡(軟性尿管鏡)を用いることにより、尿管結石だけでなく腎結石を加えた、全上部尿路結石に対し治療が可能な治療法です。結石の硬さに関わらず破砕が可能であり、当院では通常2.5cm前後までの結石を対象としております。
大きな結石の場合は複数回のTULが必要であったり、外来で体外衝撃波(ESWL)治療を追加で行うこともあります。患者さんのご都合にあわせた治療計画を立てることが可能です。当院では年間100例程度施行しており、基本的に3泊4日の入院で行っています。

腎盂尿管移行部狭窄症

先天性水腎症、特に腎盂尿管移行部狭窄症に対しては、従来は腹腔鏡下腎盂形成術を行っていました。2020年4月よりロボット支援下腎盂形成術(RAPP)が保険収載され、当科でも2020年9月よりRAPPを開始しました。 これにより圧倒的な手術時間の短縮、繊細で安全な手術操作が可能となりました。さらに、これまでの各種腹腔鏡手術の経験により、臍部に助手用ポートを設置することで手術創を少なくし、整容性も達成しています。

過活動膀胱

治療はまず生活指導(水分の取り方、便秘の改善、減量、内服薬の変更など)、行動療法(尿意切迫感を少しだけ我慢する)を行うとともに、症状により薬物療法を行います。 しかし、これらの治療で改善しない難治性過活動膀胱に対して、2020年4月よりボツリヌス毒素膀胱内注入療法が保険適用となりました。当科でも2020年8月より開始しました。

間質性膀胱炎

食事の影響が強いことが多い為、食事のパンフレットや栄養指導を行います。平行して、麻酔下水圧拡張やジムソ膀胱内注入療法を検討していきます。また、様々な内服薬で症状をコントロールしていくこともあります。