がん診療センター

乳がん

乳腺内分泌外科の特徴

詳細な術中病理検査

乳房にできたがんは大きくなってしこりになり、さらに腋(わき)のリンパ節に流れていきます。当院ではがん細胞を確実に取り切るために手術中に非常に詳しい病理検査を行っています。

① センチネルリンパ節生検:RI・色素併用法を行って確実にセンチネルリンパ節(見張りのリンパ節)を摘出し、リンパ節全体を調べるためOSNA法(注)を用います。転移の有無は術中に確定します。術後の診断でリンパ節転移が判明し、後日リンパ節の追加切除(腋窩郭清)をすることはありません。
② 乳房部分切除:乳房を温存する切除術(部分切除術)の場合、しこりの周囲に安全域として正常組織をつけて切除します。しこりから根っこのように広がる部分があるためです。手術中にぐるりと全周にわたりがんが残っていないかを検索し、もしがんの根っこがあればその部分を追加でとります。残っていないことを最終的に確認できるまで切除するため、後日改めて再切除することが激減しました。(直近10年間で乳がん手術1520例中3例)。

(注)OSNA法(One Step Nucleic acid Amplification method):センチネルリンパ節については、2mm幅での捺印細胞診のみならず、乳がん細胞に発現している遺伝子(CK19mRNA)のレベルまでリンパ節全体を調べることによりどんなに微小な転移も見逃しません。大阪大学・Sysmex社との共同研究に当科も開発時より携わり、保険適応を得ました。

様々な術前検査でも良性悪性境界型で乳がんとは断定できない場合や良性腫瘍では、まず摘出生検を行い術後に詳細な病理検索を行います。最終的に乳がんと診断されたり、良性腫瘍の内部に悪性腫瘍が混在していた場合などでは、後日追加切除や腋窩郭清を行う場合があります。(直近10年間で摘出生検187例中2例)。

遺伝相談外来

「なんでがんになったのでしょう?」「うちはがん家系だからですか?」
患者さんからよく質問されます。まだ未解決の部分が多くありますが、細胞の正常な状態を保つのは遺伝子の働きであり、それが壊れて無秩序に増殖する病気ががんと考えられます。遺伝子は2万個以上ありますが、遺伝子によってなりやすいがんがあることがわかってきました。特に乳がん・卵巣がんの原因遺伝子(BRCA1/2)は保険で調べることができる場合があります。資格を持つ臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングと乳がん看護認定看護師による面談を通じて遺伝についてのご相談ができます。
 
遺伝相談外来に際しての詳しい説明につきましては、こちらをご覧ください。

乳がんの診断について

マンモグラフィとトモシンセシス

一般的にマンモグラフィ検診は、1方向(50歳以上)または2方向(40歳代)を撮影して、異常陰影があれば要精査となります。当院では、トモシンセシスを用いて、より詳細な検査を行います。トモシンセシスとは断層と合成の2つの意味から作られた造語ですが、マンモグラフィ検査における新しいX線撮影技術です。1回の撮影で連続的にX線を照射し、奥行き方向(3次元的)に細かくスライスした断層画像となり、乳腺に埋もれた病変の発見に役立ちます。マンモグラフィは診断参考レベル(DRLs2020)の2.4mGyを下回る値で、かつ画質や診断能が担保される適正な線量で撮影しています。検査は、すべて女性の技師が担当しますが、「診療放射線技師」の資格だけでなく、「検診マンモグラフィ撮影認定放射線技師」資格を持つ7名が検査を担当します。
 マンモグラフィーは可能な限り薄く挟み込んで撮影すると、よりきれいな画像となります。痛みを我慢ができる範囲で圧迫しますが、どうしても痛みが強い方・痛みに不安のある方の場合には、痛み低減機能(Comfort Comp“なごむね”)を使用することもできますのでマンモグラフィ検査受付時にご相談ください

乳房超音波検査

マンモグラフィでは微細な石灰化や腫瘤像、左右差などを指摘しますが、超音波検査では特に腫瘤像の内部構造を詳しく検査することができます。当院では、乳腺超音波検査もすべて女性技師が担当します。「臨床検査技師」の資格だけでなく、「日本超音波医学会認定超音波検査士(体表臓器)」を持つ11名が検査を担当します。

ステレオガイド下吸引式乳房組織生検(ST-VAB)

マンモグラフィで発見された微細な石灰化病変の中には、非常に早期のがん(非浸潤がん)の場合があります。触診や超音波検査ではわからない微細な病変です。

ST-VABとは、乳房生検専用の装置で、小さな傷痕で病理組織診断が行えるのが特徴です。また、マンモグラフィで病変の位置を確認しながら十分な量の組織を採取できるために正診率(がんをがんと判定できた率)はほぼ100 %の信頼度が高い検査です。乳房は非常に血流の豊富な臓器ですので、検査後の出血に注意するため検査当日は入院して安静にしていただき、翌日創部を確認の上退院としています。退院後は通常の勤務可能です。検査結果は約1週間後に外来で説明いたします。
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乳管ファイバー

乳頭からの分泌物の細胞診が、Class III(偽陽性)やIV(悪性疑い)の場合、分泌物のCEAが高値を示す時に行います。
乳頭部より分泌物を認めるときには、まず細胞診を行います。
また、分泌物の量が数滴ある時には、腫瘍マーカー(CEA)を測定します。これらの検査で悪性が疑われた時には、乳管ファイバーと呼ばれる針金のように細い内視鏡で乳管内の腫瘍性病変の有無を検索します。

乳がんの治療について

乳房温存療法の適応について

乳房温存療法ガイドライン(1999年日本乳がん学会、2006年がん臨床研究事業研究会編)によると、
1)腫瘍の大きさが3cm以下(整容性が保たれるなら4cmまでは許容される)
2)各種の画像診断で広範囲な乳管内進展を示す所見がない
3)多発病巣がない(2個の病巣が互いに近いときには許容される)
4)放射線照射が可能
5)患者さんが乳房温存療法を希望すること

以上の5つの条件を満たす場合に、乳房温存手術の適応となります。年齢・リンパ節転移の程度は問いません。条件を満たさない場合には一般的に乳房切除の適応となりますが、術前抗がん剤治療を行い、腫瘍の縮小効果が十分であれば乳房温存療法が可能となる場合もあります。温存療法では、術後に放射線治療を行う場合が多くなります。

センチネルリンパ節生検とは?

乳がん患者さんの約20~30%の方に腋(わき)の下のリンパ節に転移があります。特にリンパ節が腫れていない場合でも15~25%の方を詳しく調べると転移があります。転移があるリンパ節は切除する必要がありますし、その後の再発を防ぐために効果的な薬物療法を計画していきます。したがって、腋の下のリンパ節に転移があるかどうか、正しく診断する必要があります。しかしながら、従来の画像検査(超音波検査やCT)では、手術の前に転移の有無を正確に診断できないため、根治手術としてすべての患者さんに対して一律にリンパ節を切除する手術(腋窩リンパ節郭清)が行われてきました。そのため、腋の下のリンパ節に転移が無かった方でも、手術の後、上肢の浮腫、運動障害、知覚障害などの合併症に悩む患者さんが少なくありませんでした。

 そこで、一律な腋窩リンパ節郭清を省略するために、腋窩リンパ節に転移のないことを正しく診断する方法の開発が望まれてきました。その新しい方法がセンチネルリンパ節生検という方法です。
乳がん学会認定施設として、センチネルリンパ節生検の安全性に関する多施設共同臨床治験に参加し、保険適応となりました。当院ではより正確な同定が出来るように、RIおよび色素併用法を用いています。術中に転移の有無を、2mm毎の細胞診および前述のOSNA法を用いて詳細に検索しています。

手術後補助療法について

手術で完全にがんが取り切れたと考えられる場合でも、目に見えないようながん細胞が残っている可能性があります。再発や転移を抑えるため手術を補う治療を行う必要があり、このことを術後補助療法といいます。
 術後補助療法が必要とされる因子として、リンパ節転移の有無・ホルモン受容体の有無・腫瘤の大きさ・組織学的悪性度・進行度合い・年齢などが挙げられます。その中でも特に重要なのはリンパ節転移の有無となります。
 術後補助療法には、ホルモン剤を使うホルモン療法、抗がん剤を使う化学療法、放射線療法などがあります。ホルモン療法や化学療法には、いろいろな薬剤の組み合わせがあります。化学療法は再発を低下させることが統計学的に確認されています。

抗がん剤治療に際しての詳しい説明につきましては、こちらをご覧ください。

内分泌治療(抗女性ホルモン治療)について

治療の目的
 乳がんのなかには、女性ホルモン(エストロゲン)の働きでがん細胞が増殖する「ホルモン感受性乳がん」があり、全体の6割~7割を占めています。このようなホルモン感受性乳がんに対しては、エストロゲンの作用を抑えることで乳がんの増殖を抑制する内分泌療法(ホルモン療法)が有効となります。
 内分泌療法は、副作用が比較的少なく身体への負担が軽いのが特徴的です。手術後に長期間治療を続けることで、乳がんの再発を予防する効果が期待できます。

 内分泌療法に適しているかどうかは、手術などで取り除いたがん細胞を調べることで分かります。細胞内にエストロゲン受容体(ER)や、プロゲステロン受容体(PgR)のいずれかが一定量以上ある場合は「ホルモン受容体陽性」となり、内分泌療法の効果が期待でき、この治療の適応となります。一方、これらの受容体の少ない「ホルモン受容体陰性」の患者さんでは、ホルモン療法の効果はあまり期待できないため、化学療法(抗がん剤治療)が適応となります。
詳しくはこちらをご覧ください。

乳がんの放射線治療

放射線を用いてがん細胞を選択的にやっつける治療法で、用いる放射線や期間は病態によって変わります。乳がんは放射線が効きやすいがんの1つです。対象となる方は、乳房温存手術を受けた方、乳房全切除術後でも腋窩リンパ節転移が多かった方、再発した方で局所療法が必要な方などです。

放射線治療について
 放射線治療は身体に負担の少ない非侵襲的な治療で、大変効果があります。放射線治療室では、お一人で治療を受けていただくことになりますが、治療は熱くも痛くもありません。治療の間はスタッフがテレビカメラでずっとあなたを見守っていますのでご安心下さい。

 心配なこと、分かりにくい点などがありましたら放射線治療医に遠慮なくご質問ください。十分に納得された上で放射線治療をお受け下さいますようお願い致します。あなたと私達治療スタッフが、力を合わせて放射線治療を成功させ、病気を克服して社会復帰されることを心から願っております。
 詳しくは、こちらをご覧ください。

 

乳がんの診療実績について

  2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
温存術 76 80 71 54 50
全摘術 107 110 126 137 130
内)再建 9 14 10 10 10
乳がん悪性手術合計 183 190 197 196 180