がん診療センター

口腔がん

口腔がんとは

口腔がんの発症率はがん全体の約1-2%とされています。肺や他の消化器と比べて直接目で確認できる場所であるにもかかわらず、早期発見・治療がなかなか困難であるのが現状で、一般の方々の病気に対する知識がまだまだ十分でないことが伺えます。そして、社会構造の変化の中で、近年口腔がんで亡くなられる方の割合はむしろ増加傾向にあると報告されています。口腔は消化管の入口として咀嚼(噛むこと)や嚥下(飲み込むこと)に関わっているだけでなく、鼻咽腔閉鎖と連動して呼吸を行う入り口としても機能しています。さらに言語発声における構音器官としての重要な機能も有していることから、口腔領域は生命維持や社会生活を送る上で極めて重要な役割を担っています。したがって、がんが一旦進行してしまうと日常におけるこうした機能に重大な障害をきたすことになり、生活の質が極めて損なわれてしまうことになります。

口腔がんの種類

口腔がんの大多数は組織学的に「扁平上皮がん」といわれる口腔表面粘膜から発生するがんです。他には唾液を産生する唾液腺から発生する唾液腺がん、メラニン色素を産生する細胞から発生する悪性黒色腫、血液のがんである悪性リンパ腫などもみられます。口腔がんはその半数近くが舌に発生し、他には歯肉(歯ぐき)、口腔底、頬粘膜の順に多く発症がみられています。性差・年齢的には60歳代以降の男性に多いとされていますが、舌がんは20-30歳代の比較的若年者にも発症することから注意が必要です。

口腔がんの病態と症状

早期には、肉眼的にびらん(ただれ)や紅斑(赤み)、白斑または腫瘤(しこり)としてみられ、自覚症状を欠く場合が少なくありません。口内炎と区別が困難な場合もあり(口内炎のページ参照)、この時点で悪性疾患を疑うにはかなりの専門的知識が要求されます。がんが進行すると腫瘤の増大や潰瘍(粘膜がえぐれた状態)、出血などがみられるようになり、疼痛や知覚異常(しびれ)を自覚することも少なくありません(がんの痛みは、進行に伴ってがんが正常な組織に浸潤して、周辺の神経を圧迫もしくは破壊することによって起こるため、初期には殆ど痛みを自覚することはありません)。病期の進行により舌の動きが制限されて、食事や会話に障害をきたしたり、開口障害(口を開けにくい)がみられるようになることもあります。歯肉(歯ぐき)に生じるがんでは、歯が動揺したり、義歯(入れ歯)が合わなくなったりすることもあります。

口腔がん発生にかかわる危険因子

口腔がんのリスク因子としては、喫煙と飲酒について、習慣のない人に比べて数倍口腔がんの発生するリスクが高いと報告されています。また、う蝕(虫歯)で欠けてしまった歯や、不適合な入れ歯・さし歯によって慢性的に口の中の粘膜を刺激することで発がんのリスクが高まることも指摘されています。難治性の口内炎や白板症・扁平苔癬などの粘膜疾患は、がん化する可能性があることから早期発見、治療が重要です。
   

口腔がんの診断と実績

口腔がんの診断

口腔がんの診断は視診・触診が基本となります。口の中は直接観察が可能ですし、触診では進行度の把握も可能です。頸部の触診でもリンパ節の変化を把握することができます。これら視診・触診に加えて、原発巣や頸部リンパ節への転移、さらには遠隔転移の評価として超音波・CT・MRI・PET-CTなどの画像診断をおこなうことがあります。また、さらに組織検査を行うことにより、がん以外の疾患との鑑別やそれぞれのがんの性質(悪性度)について詳細に調べます。これらの検査結果をもとにステージ(がんの進行度)を決定します。

当科新規患者数

  2017年 2018年 2019年 2020年 2021年
舌・口腔底癌 16 12 28 21 23
歯肉癌 10 13 18 14 10
その他の口腔癌 4 2 3 4 5
唾液腺癌 1 0 0 2 1
その他の悪性腫瘍 0 0 4 3 3

 

口腔がんの治療と実績

口腔がんの治療


他のがんと同様に、手術・放射線治療・化学療法(抗がん剤による治療)が基本となり、これらの治療を組み合わせることにより、集学的に治療を行います。治療の位置付けとして、単独で根治治療となり得るのは手術・放射線治療になります。化学療法の役割は「放射線治療に追加することで治療効果を高める」や「手術ができないもしくは遠隔転移などでの延命効果を期待して使用する」とされています。当科においては、原則的には標準治療に準じた治療を行っており、初期のがんに対しては手術を中心に治療を行い、 進行がんに対しては必要に応じて上記の治療を組み合わせて治療を行っています。
口腔がんの治療は生命維持や社会生活を送る上で極めて重要な役割を担っている部位の治療となるため、がんに対する治療を行うことと引き換えに機能面や整容面で少なからず犠牲を払う必要が出てきます。治療を組み立てていく際には失われる機能・温存できる機能・期待される根治度をしっかりと判断することが重要となります。したがって、同じ部位・同じステージでも年齢・全身状態・転移の状態・社会的立場・人生観などによって実際に選択される治療は異なる場合があります。

手術に際しては、切除断端のがん細胞の有無を術中に迅速病理組織診断しながら正常組織を一部含めて切除しています。広範切除後の欠損に対しては、当院形成外科の協力のもとで血管柄付遊離皮弁・筋皮弁・骨皮弁を用いた即時再建術を行って、咀嚼(噛むこと)・嚥下(飲み込むこと)・発音などの口腔機能の回復を図っています。また、手術や放射線治療による根治が困難な場合や年齢・全身状態・社会的立場・人生観などを考慮した上で根治治療が困難もしくは希望されない場合に対しては、殺細胞性抗がん剤・分子標的治療薬および免疫チェックポイント阻害剤などの化学療法(超選択的動注化学療法を含む)や化学療法併用放射線治療 も行っています。

口腔がんでは、頸部リンパ節転移の制御が治療成績を左右しており、一次治療開始時に頸部リンパ節転移を認めない症例に対しては、一次治療後の経過観察を厳重に行い、後発転移の早期発見に努めています。また、リンパ節転移症例には機能的頸部郭清術を行い、可能な限り機能を温存するようにしています。

当院では患者さんや家族が十分に納得できる形で治療法を決定しており、希望があればセカンドオピニオンを推奨しております(他病院から受診される場合には、検査データと診療情報提供書(紹介状)を用意していただきます(要予約))。

 

治療実績

手術

  2017年 2018年 2019年 2020年 2021年
口腔癌手術 再建なし 15 14 31 26 26
再建あり 4 5 12 6 5
頸部郭清術 単独 3 3 1 2 9
併施 7 7 15 7 8
唾液腺癌
手術
  0 1* 0 1 1*

*再建あり

放射線治療・化学療法

  2017年 2018年 2019年 2020年 2021年
放射線治療単独 0 0 1 3 2
化学療法単独 32 15 20 14 13
化学療法併用
放射線治療
5 8 4 3 4

なお、当施設は「日本がん治療認定医機構認定研修施設」・「日本口腔腫瘍学会口腔がん専門医制度指定研修施設」・「日本口腔外科学会認定研修施設」に認定されています。