がん診療センター

大腸がん

大腸がんの疫学、症状

大腸がんは、大腸(結腸・直腸)に発生するがんで、日本の発生部位別の罹患数の統計ではすべてのがんの種類のうち最多で(男女別:男性3位、女性2位、2018年)、死亡数についても全体で2位(男性3位、女性1位、2019年)となっています1)。大腸がんは、腺腫という良性のポリープが悪性化して発生するものと、正常な粘膜から直接発生するものがあります。 早期の段階では自覚症状はほとんどないことが多く、検診での便潜血検査や貧血などを契機に行った大腸内視鏡検査により発見されることもあります。がんが進行すると血便(便に血が混じる)、下血(腸からの出血により赤または赤黒い便が出る、便の表面に血液が付着する)、下痢と便秘の繰り返し、便が細い、便が残る感じ、おなかが張る、腹痛、貧血、体重減少などの症状が出ることが多くなります。当院では、大腸がんに対し、消化器内科、消化器外科や放射線科、緩和ケア科などとも連携し、集学的な治療を行っています。

大腸がんに対する診断・検査法

日本消化器内視鏡学会認定指導施設である当院では、年間約4,000-4,500例と多数の下部消化管内視鏡検査(大腸ファイバー)を行うことにより、早期の段階で大腸がんを発見し、治療することを目指しています。当院での内視鏡検査の際には、鎮静剤を用いて苦痛を和らげる配慮を行うとともに、最新の内視鏡機器により、精度の高い内視鏡検査を行っています。初回の内視鏡検査では全大腸をきちんと検査することを目的とし、切除対象病変が明らかな場合以外は生検までの検査としています。大腸ポリープや大腸がんなどの病変が発見された際は、必要に応じて色素内視鏡、狭帯域光観察(Narrow band imaging; NBI)、拡大内視鏡、超音波内視鏡で病変の範囲や深達度(がんの深部への浸潤範囲)などの精査を行い、その後の内視鏡治療、外科手術、化学療法などの適切な検査法選択に役立てています。また、CT、MRI(磁気共鳴画像)、PET(陽電子放出断層撮影)などのがん転移診断も適宜行い、適切な治療に進めています。
 まれに、下部消化管内視鏡検査の深部大腸への挿入が困難な方がおられますが、そのような患者さんに対しては小腸挿入用のバルーン内視鏡を用いた下部消化管内視鏡検査を行うことで、全大腸の観察を可能としています。また、CTコロノグラフィー(バーチャルコロノグラフィーともいいます)を行うことも可能です。CTコロノグラフィーとは、内視鏡を用いることなく、マルチスライスCT(コンピューター断層撮影)装置で大腸を撮影し、コンピューター処理によって3次元画像を作成し、大腸のがんやポリープなどを調べることができます。

大腸がんの治療と実績

 当院の内視鏡的切除術は、大腸がんと腺腫(ポリープ)をあわせて約700例/年です。大腸がんにして内視鏡的に切除可能な大腸がんについては、ホットスネアポリペクトミー(HSP),内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)により切除を行っています。大腸がんが大腸粘膜の深部に浸潤している場合はリンパ節や他臓器に転移している可能性があり、内視鏡的な切除の対象になりませんが、一括での切除可能な大きさであり、大腸組織内への浸潤が粘膜層内および粘膜下層1000 μmまでに留まるがんに対してはESDなどの方法で積極的に内視鏡治療を行っております。内視鏡治療を行うことにより大腸切除による腸管の機能障害や手術による体への負担、長期の入院を回避し、治療前とほぼ同様の生活を送ることが可能となります。また、当院では良性(腺腫)と内視鏡的に診断される小病変についても、大腸がんに進展する前に、EMRやコールドスネアポリペクトミー(CSP)を含めた方法により、積極的に内視鏡治療を行っています。
内視鏡的切除対象外の症例については、手術治療や化学療法(抗がん剤治療)を行っています。当院の大腸がんの治療数実績は以下の表のとおりです。

治療方法/年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
HSP 31 39 22 3 3
EMR 70 55 41 43 116
ESD 51 55 44 34 34
内視鏡治療

内視鏡的切除術の適応となる大腸のがん・腺腫に対する内視鏡切除方法は病変の形態や大きさによって使い分けています。代表的な方法は下記のとおりです。

① ホットスネアポリペクトミー(Hot snare polypectomy; HSP)
スネアと呼ばれるワイヤーを病変周囲にかけて絞り込み、熱を加えて切除する方法です。スネアの大きさはさまざまあり、特に茎のある病変に対しては良い方法です。

② 内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection; EMR)
粘膜の下に針で薬液を注入し、スネアを使用し熱を加えて切除する方法です。ある程度の大きさ(20mm程度まで)の茎のない病変に対して用いられます。

③ 内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection; ESD)
粘膜の下に薬液を注入し、電気メスで病変の周囲の粘膜を切開し、病変を少しずつ剥離して切除する方法です。大きな病変や、薬液で病変が持ち上がらないときなどに行います。

④ コールドスネアポリペクトミー(Cold snare polypectomy; CSP)
スネアを使用し熱を加えずに切除する方法であり、10mm以下の小さな腺腫に対する治療です。深い部分までは切除できないため、がんに対しては適用されません。最も大きなメリットは出血・穿孔(腸に穴があくこと)が少ないことにあります。


                       (文献2より引用)

手術治療

大腸がんに対する手術治療はリンパ節郭清をともなう腸切除です。がんが大腸の壁により深く浸潤した場合、がんの周囲に存在するリンパ節に転移を起こすことがあるため、腸管とともに進行度に応じた範囲のリンパ節を郭清します。

結腸がんの手術

腹腔鏡下手術を第1選択としており、大腸がんの98%は腹腔鏡下手術を行っています。通過障害や腸閉塞を伴った進行大腸がんに対しては消化器内科と連携して大腸ステントや経肛門チューブ留置により減圧した後に腹腔鏡下手術を行っています。2009年以降、低侵襲で整容性に優れたSILSも行っています。

直腸がんの手術

 直腸がんに対しても従来の腹腔鏡下手術に加え、2018年から経肛門内視鏡手術(TaTME)を導入し、通常の腹腔鏡下手術が難しい巨大な病変や高度肥満の患者さまに対しても、より根治性の高い手術が可能となりました。
 さらに2019年よりロボット支援下直腸切除術を行なっており、直腸がんに対してはロボット支援下手術を第一選択としています。 また肛門近くの進行直腸がんには術前放射線化学療法や術前化学療法を行い、根治性に加えて肛門温存や排便・排尿・性機能温存などに配慮した質の高い治療を提供しています。

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       肛門近くの進行直腸がんに対する術前治療
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早期直腸がんの経肛門的鏡視下手術(MITAS)

大腸内視鏡での切除が困難な肛門に近い比較的早期の直腸がんに対しては、肛門に専用器機を装着して直腸内を炭酸ガスで膨らませ、鏡視下で腫瘍を切除する方法 (低侵襲経肛門的局所切除:MITAS)を行っています。
肛門からの直腸内操作のため、腹部に傷はつきません。

直腸がんのロボット手術

従来の腹腔鏡手術では骨盤内の深い部位の操作に制限がありました。「da Vinch」は鮮明な術野、手ブレ防止機能や手首以上の可動域を持つ鉗子によって、深くて狭い骨盤内での操作をより自由にかつ繊細に行うことができます。このため、高い根治性と自律神経機能温存、術後合併症の現象など様々なメリットが期待できます。

ロボット手術は「da Vinci」という機械を使用して行われます。当院では最新式の「da Vinci Xi」が導入されています。執刀医が3Dモニターを見ながら、「da Vinci」の4本のアームに付けられた腹腔鏡カメラと3本の鉗子をコントロールしながら手術を行います。ロボットアームに取り付けられた鉗子が執刀医の手の動きに連動し、執刀医の手の動き以上の繊細さで手術を行う仕組みです。「da Vinci」を用いた食道がん、胃がん、直腸がん手術は、2018年4月より健康保険の適応対象となり医療費は通常の腹腔鏡下手術と同じです。
患者さまごとに手術以外の治療も含めたベストの選択肢を提供できるように、消化器内科、放射線治療科、麻酔科などとの連携体制も整っています。
また、今後もさらに良い治療を患者さまに提供すべく新しい治療法の開発にも取り組んでいます。

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da Vinci Xiによる
ロボット手術

 

 

  2018年 2019年 2020年 2021年
結腸がん 163 158 123 91
 腹腔鏡 157 150 117 89
 単項式 57 64 40 31
直腸がん 35 41 44 50
 腹腔鏡 35 41 42 50
 ロボット 0 10 31 32
 経肛門鏡視下切除 0 0 0 3

化学療法

切除不能の進行・再発大腸がん、および、がん根治術の前後に行われる術前後(周術期)補助化学療法として、化学療法(抗がん剤治療)が行われます。大腸がんの化学療法は劇的な進歩を遂げ、生存期間が延長しており、従来、切除不能であった高度な転移のある場合でも、化学療法により腫瘍が縮小し、外科手術による切除が可能となる例も見られるようになりました。抗がん剤の選択にあたっては、最新のガイドライン3)に準じ、大腸がんの状態や患者さんの全身状態等も踏まえ、適切な治療法(レジメン)の選択を行っています。また、大腸がんの遺伝子異常の種類に応じて治療薬剤の選択を行うことや、適応となる症例については免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法を行うなど、個別化・最適化した治療を行っています。化学療法による副作用やがんによる症状が強い場合には緩和ケア科と連携して苦痛の軽減に努めています。

当院における大腸がんに対する新規化学療法導入件数 (薬剤変更を含まない)

  2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
件数 35 29 28 53 45


参考文献
1) がん情報サービス ホームページ(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html)
2) 患者さんとご家族のための 大腸ポリープガイド 一般財団法人 日本消化器病学会編集 2016年発行
3) 大腸癌研究会.大腸癌治療ガイドライン.2019年度版