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小切開MHM法

 甲状腺腫瘍等に対する頸部手術では通常左右対称に大きな切開創を要します。これは肌年齢が若く、手術痕に変色や肥厚性瘢痕化を来し易い方にとって、整容性(美容面)で苦痛になる場合があります。一方で甲状腺癌などの悪性腫瘍の場合、気管、反回神経、食道、血管等への浸潤が稀ではありません。そのため当科では、安全性およびリンパ節郭清を含めた根治性を担保するために、内視鏡専用器具ではなく、通常ないしマイクロサージェリー用の精巧な器具を使用するハイブリッド型内視鏡手術「Tori法」(論文:Surg Endosc. 2014 Mar;28(3):902-909)を開発し、10年間にわたり標準手術として確立してきました。内視鏡手術は良性疾患が2016年4月、悪性疾患が2018年4月に保険収載されています。
 
 2010年代前半に内視鏡手術に保険診療上の制約があったこと、更に内視鏡手術時に鎖骨尾側に加えられる1-2穴(5mm)のport痕の省略を目指して、内視鏡手術ではない通常型手術「小切開MHM法」を命名、新規開発いたしました。MHMとはMuscle Hanging Maneuverの省略です。Strap muscles (前頸筋群)と甲状腺前面の間を剥離して筋肉を牽引することで操作空間を作成します。このことにより、片側鎖骨上窩小切開(2-3cm程度、腫瘍サイズや進行度により調整)での視野確保、および狭い操作空間での手技が可能になります(ご参照(1))。内視鏡手術「Tori法」と共通の面もありますが、反回神経走行部を除き、甲状腺を直視下にほぼ全周授動するという手順が異なります。
 
 甲状腺癌を含む全摘症例に対しても、皮膚切開創を宙に浮かぶ円盤のように牽引を工夫することで、切開創とは反対側の操作を可能にします。結果として対側に新たな切開創を作成することなく全摘(+リンパ節郭清)症例に対応しています(MHM-BR法)。術後の発声に大きな影響を与える反回神経の扱いにおいて、「Tori法」、「小切開MHM法」、共に過去の手術例での術中誤切断は皆無でした(ご参照(2)、但し反回神経浸潤例は除きます)。
 
 肌年齢等から整容性のメリットが大きいと考慮される45歳未満の方において、高度進行例を除く甲状腺癌症例、良性腫瘍(最大径5cm未満)、のケースで術前検査結果を慎重に検討して適応を判断させていただきます。詳細については外来受診時にご相談いたします。
 
参考:
(1)
内視鏡手術に匹敵:創の目立たない“極小切開甲状腺癌標準手術(MHM-BR法=新Tori法)”について(僅か2㎝創長の通常保険診療手術)(2014年3月22日upload)
(2)
「在院および手術関連死亡0、合併症率0.42%を達成した手術成績」
https://www.oph.gr.jp/blog/topics/042.html (2021年7月14日upload)